「お、何かさり気に、いいカフスしてんじゃん」
頬杖をついていた良太は、いきなり小笠原に指摘されて、隠すように腕を降ろした。
「珍しくクールじゃないかよ、良太にしては」
「うっさいな、能とか高尚なもん観る時くらい俺でもこのくらい………」
「ふーん」
何やら意味ありげに小笠原は良太を見つめる。
「それ、最新のデザインだろ? ひょっとしてプレゼントとか?」
「は? 知るかよ、そんなの」
もろに言い当てられて少し動揺した良太は、慌ててビールを飲み干した。
誕生日には腕時計などもらったことはあるのだが、このカフスはクリスマスやバレンタインなど製菓会社の陰謀だくらいにしか思っていないオヤジが、珍しくも年末のクリスマスにくれたのだ。
良太の方も、お中元とお歳暮として毎年夏と暮れには工藤の行きつけである前田のバーにボトルを入れているのだが、夏の工藤の誕生日とかクリスマスプレゼント、なんてことは口にしたためしがない。
去年のバレンタインには、あまりにみんなプレゼント合戦に夢中なので、つい、良太ものっかって、日頃のご厚情に感謝して、サングラスなんかを工藤にプレゼントしてしまったのだが。
とにかくせっかくもらったカフスを着けていくような機会がなく、年明けのイベントは茶の湯などもあったため、アクセなどつけては行けなかったし、明後日の初釜も同様だ。
だから、せっかく謡初めの匠の舞台だからと、スーツもそれなりのものを着て、カフスもつけてみたのだ。
「ちぇ、いいよなあ、みんな。クリスマスにプレゼントしてくれるような相手がいてさ」
小笠原はしっかり見通している口ぶりで、羨ましそうに言った。
「真中のヤツなんかも、クリスマスもちゃっかり彼女とデートだぜ? 俺というモノがありながら」
昨年、ちょうど小笠原が映画のロケで南の離島に割と長く滞在しているうちに、当時つき合っていた女優の彼女に新しい彼氏ができてフラれたのだ。
その自棄酒に付き合ったのも良太だったが。
誰かと付き合うにしても、人気俳優でもやはりドラマや仕事で知り合うくらいしかそうそう出会いの場などもないらしく、飲み友達もなかなかできない、マジな彼女もなかなかできないという状況が続いているらしい。
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