寒に入り9

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 マネージャーの真中は、逆に小笠原がフラれた頃から高校の時の同級生と付き合い始めて、順調らしい。
 今度計画しているのは、社員の家族を招いての慰労会のようなものだが、そういえば真中や軽井沢の平造には家族がいないのだと、良太は改めて思う。
「杉田さんも呼ぼうかなあ」
 軽井沢で思い出したのが、平造がいない時など、別荘へ手伝いにきてくれる家政婦で、工藤家とは長い付き合いのようだ。
 夏に工藤と軽井沢に行った時もしっかり世話になった。
「ああ、軽井沢の? いんじゃね? 喜ぶだろ」
「だよな、声かけてみよ」
 家族がいないといえば、秋山も長野の実家とは絶縁状態だというから、こちらも家族はナシということになる。
 でも兄弟姉妹とかとも連絡とってないのかなあ。
「しかしほんと、うちの社員て訳アリ過ぎ」
「いやあ、人間誰しも、いろいろあらあな」
 小笠原がやけに達観したようなことを言う。
「悟りの境地になってんなよ」
「これがならずしていられるかって。はあ。生か死か、それが問題だ」
「こんなとこでハムレットするなよな」
 言われなくても、とばかりに小笠原は今度は吟醸酒をオーダーした。
「あと、刺し盛りとおでん」
 スタッフがオーダーを復唱して離れると、「まだ食うのかよ」と良太はげんなりと小笠原を見た。
 良太もいい加減食べたが、小笠原はガタイが大きいだけ、良太に輪をかけて食べまくる。
「太ったら撮影に影響するぞ」
「明日会社のジム行くし」
「俺も最近、忙しすぎて、筋肉とか落ちてる気がする」
「んじゃ明日、一緒にやろうぜ、筋トレメニュー」
「そうだなあ」
 会社のビルの四階はフィットネスジムになっていて、社員なら誰でも使えるようになっている。
 管理は提携している会社が器具などの点検までやってくれている。
 良太や小笠原、アスカはよく使っているが、たまに他の社員も顔をみせることがある。
 工藤は高輪のマンションにあるジムの、特にプールをよく利用しているようだ。
 良太も一、二度プールを使ったことがあるが、入居者とゲストなら誰でも使えるようになっている。
「会社にも屋上にプール作ったらいいのになあ」
「屋上じゃ、冬は使えないじゃん」
「ドームの屋根つけてさ」
「お前、そういうマンション見つければいいだろ」
「実家にはプールがある」
 それを聞くと良太はムッとする。
「だったら実家に行けよ、贅沢モノ!」
 こいつはどんなお坊ちゃんだよ。
「祖父さんが金持ちだったらしいけど、親のうちだからな」

 


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