一方、秋山は工藤が東京に戻る前に、気になって十二時を少し回った頃、車を飛ばして会社の七階にある良太の部屋を訪ねている。
だが全く応答はないので、仕方なく階下に降りてきた。
警備員は十二時に交代しているので、良太のことはわからないだろう。
良太がいつも使っているジャガーもない。
ただ車は、飲んだりした場合は駐車場に置いて帰ることもあるから、ないからと言って必ずしもいないとは限らない。
「悪いな、お疲れのところ、何度も」
車に戻ると、もう一度小笠原に電話を入れた。
「え、何かあった?」
「いや、ちょっとね。今日のロケって何も問題なかった?」
「全然順調だったぜ。問題ってわけでもないけど、八時頃だったか工藤がふらっと寄ってった時、女と一緒だった、のかな」
小笠原の言葉に秋山は引っ掛かった。
「あ? 女? って誰?」
「何か、どっかの大学の教授? とかで、ちょっと年季入ってたっぽいけど、ゴージャスな美女。工藤とえらく親密そうでさ」
「香坂准教授か」
意外な人物が現れたもんだ、と秋山は思う。
「あ、わかった!」
「どうした?」
「ひょっとして良太、その女のことで頭にきて雲隠れしちゃったとか?」
秋山は少し脱力した。
この忙しいのに、仕事を放り出して良太がそんなことをするはずがない。
「あ、でも」
「何だ?」
また小笠原が何か思い出したようだ。
「確か、工藤はとっとと帰ってて、その女教授が良太とちょっと話してるのを俺、見た気がする」
「え?」
「そうそう、撮影中だったんだけど、良太、その女教授とどっか行くみたいなのをチラッと見た気がする」
一体どういう状況なんだ?
まさか、香坂准教授と良太が工藤さんのことで何かやりあっててとか?
首を傾げながら秋山はひとまず自分の部屋に戻った。
それから数回、良太に連絡を入れているが、反応は全くない。
「既に真夜中三時だぞ」
さすがにこれはおかしいと秋山も思い始めた。
こうなると森村の返答も怪しく思えてくる。
それに、香坂准教授だと?
何かあったんじゃないだろうな。
「真夜中だが、非礼を承知でかけてみるか」
秋山は携帯の番号から一つを選んでタップした。
信号が青になってアクセルを踏んですぐ、車の携帯用スタンドで携帯が鳴り始めたが、千雪は表示されている番号に心当たりはなかった。
だが、この時間に掛けてくる相手が少し気になって、電話に出た。
「秋山です」
千雪に電話を掛けたことはないが、秋山は念のためにアスカに番号は聞いていた。
さすがに千雪もこれは無視はできなかった。
「はい。こんばんは」
「夜分に失礼、単刀直入に聞くけど、香坂准教授に何かあった? ロケ現場に来てたけどすぐ良太と消えたって話だが、良太と全く連絡がつかない」
千雪は一つ溜息をついた。
ここでしらを切るよりは、味方を増やした方が得策かもしれない。
「香坂准教授が拉致されたんを良太がタクシーで追ったとこまではわかってるんやけど、そこから良太の連絡が途絶えてしもて」
秋山は一瞬絶句した。
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