「おそらく良太も捕まったんやないかと。とにかく、今良太の携帯のGPS追って、本牧埠頭に向ってます。加藤やモリーら俺入れて五人」
それを聞くと携帯を持ったまま、秋山は部屋を飛び出した。
「工藤さんには?」
「いやまだ知らせてないんやけど。奴らの目的は工藤さんやから」
おそらく香坂准教授が工藤の女だと思われて拉致られたというわけか。
それを良太がたまたま見ていた?
「それ、知らせないで、良太や香坂さんに何かあったら、工藤さん怒るとかの話じゃないから。さっき工藤さんから連絡があって名古屋から東京に戻るって言ってたし」
「確かに。ほな、工藤さんから何か言ってきたら知らせたってください」
千雪の電話を切ると、秋山はまた車に飛び乗り、谷川の携帯を呼び出した。
寝ていたようだが、秋山の端的な説明にすぐに向かうという返事があった。
「俺としたことが。もっと早く動くべきだった」
多少の後悔を口にした秋山は、本牧へ向けてアクセルを踏んだ。
同じ頃、工藤は会社の駐車場に車を滑り込ませると、すぐにエレベーターで七階に上がった。
しかし良太の部屋を覗いてみたが、猫が二匹、工藤を見てキャットタワーへと駆け上がっただけで、案の定部屋の主は見当たらない。
焦燥感が工藤を襲う。
「いったいどこへ? 何があった?」
居てもたってもいられず工藤はまたエレベーターで階下に降りた。
もう一度秋山に連絡を取ってみようと携帯を出した。
「あ、工藤さん、お疲れ様です。すみません、今、おかしなヤツがこれを投げ込んで逃げていって」
駐車場に戻ろうとする工藤に警備員が声をかけた。
「そこまで追ったんですが、見失いました。申し訳ありません」
工藤が険しい顔で警備員から受け取ったものは、石を包んだ紙で、文字が書いてある。
『女を預かっている。本牧埠頭までこい』
工藤の顔から険しさが消えた代わりに、眦は鋭い光を帯びた。
女だと?
一瞬、誰のことか理解しかねた。
まさかまた千雪を?
そう考えてハッと思い出した。
銀座で現場を訪ねてきたのは、香坂だったことを。
クロエを拉致ったのか、やつら!
「申し訳ありません、またおかしな奴がうろついているかも知れないので、よろしくお願いします」
工藤は警備員にそう言い置いて、車に戻りしな、携帯で秋山を呼び出した。
「工藤さん、今どこです?」
秋山は待っていたという感じで聞いてきた。
「会社だ。良太はいない」
「すみません、俺もうかつでした。香坂さんが捕まったのを良太が追っていったらしく、千雪くんらが今、良太の携帯のGPSを追っています。モリーも一緒です。俺と谷川さんも今向かってます」
なるほど、やはりそんなことか。
森村は俺に知らせるなとでも波多野に言い含められたんだろう。
「良太とは連絡が取れたのか?」
「いえ、おそらく一緒に捕まったらしいとしか」
工藤は息をのむ。
「わかった。だが、無茶をするな」
「承知です」
ハンドルを握る工藤の頭は却ってクールダウンしていた。
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