霞に月の84

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 石を投げてきたやつは、恐らく会社を張っていたんだろう。
 俺の居場所がわからずに、今まで連絡をよこせなかったってところか。
 フン、お粗末な連中だ。
 いずれにせよ良太の状況がわからないのが工藤には堪えていた。
 さっきの紙には女としか書いてなかった。
 一緒に捕まったのだろうとは思うが。
 クソッ!
 工藤は飯倉から首都高に上がると、ぐっとアクセルを踏んだ。

 
 

 良太と香坂を乗せたバンは、本牧ふ頭に入ると、一つの倉庫会社の敷地内へと入って行き、車から降ろされた二人は事務所らしき建物の中へと連れて行かれた。
「何だ、そのガキは」
 ソファに腰を降ろしていた五十絡みの男が良太を見て言った。
「すんません、三原さん。女の部下とかで、ついて来ちまって」
「まあいい。どのみち一人も二人も同じだ。放り込んでおけ」
 顎でしゃくって男が指示すると、赤ら顔と手下のチンピラは二人を促して隣の部屋へと押し込まれた。
 その時、香坂がはずみで床に倒れ込んだ。
「大丈夫ですか? 香坂さん」
「ええ」
 すると赤ら顔が、香坂の傍らにしゃがみこみ、「なかなかいい女じゃねぇか」などと言いながら香坂の顎に手をかけた。
 香坂は顔をさっと上げてその手を逃れた途端、赤ら顔は香坂の顔を殴った。
「やめろ! 先生にかまうな!」
 咄嗟に良太は立ち上がって男に怒鳴った。
 だが、あっという間に床に殴り倒された。
「広瀬くん!」
 香坂は顔を上げて良太ににじり寄る。
「フン、クソ生意気なガキだ」
 赤ら顔は吐き捨てるように言うと、先ほどの三原という男に呼ばれて戻っていく。
「大丈夫?」
「……ええ……何とか」
 鉄くさい味がするのは唇が切れたからだろう。
 しばし痛みを堪えていた良太だが、ようやくあたりを見回すと、古びたデスクが二つほどサビた椅子が二脚置いてある。
 四畳半ほどの部屋は元は事務所か何かだったのがも知れないが今は使われていないようだ。
 少し空いているドアから、三原と赤ら顔が何か話しているらしいが、たまに、中国とか船という単語が聞き取れるくらいだ。
 本牧ふ頭は昭和四十五年に完成以来、在来線からコンテナ貨物までを扱う横浜港の中心的な物流拠点だ。
 良太は聞こえてきた単語から、もしかすると、中国船籍の船にコンテナごと二人を乗せるつもりかもしれないと想像した。
 クッソ、千雪さんら、まだかよ。
 船が出ちゃったら冗談じゃないぞ。
 GPS、追って来てるんだよな。
 手が使えれば、ラインを送れるのに。
 結構きつく後ろ手に結束バンドで縛られているからどうにも抜けられない。
「香坂先生、絶対、仲間が追って来てくれるんで、大丈夫です」
 良太は小声ながらはっきりと言った。
「うん、わかってるよ」
 香坂は案外落ち着いていた。
「向こうで、もっと怖い連中に研究室に押し入られたこともあったし。あっちは普通に銃持ってるし、仲間が殺された」
「それは、怖いです」
 良太はぞっとした。


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