納得いかなければ何度でもやり直すのは当たり前というディレクター、下柳の仕事に対する姿勢やこだわり、それにこの仕事に賭ける意気込みはよくわかるし、良太も思いは同じだ。
しかしだからといって、遅れるわけには絶対いかないのだ。
それでもまあ、良かったと思うようなことがないわけでもないから、帳消しとまではいかずともその時ばかりは気分は上昇する。
例えば幼馴染でリトルリーグの頃からバッテリーを組んできた肇と、高校の時、部のマネージャーだったかおりが最近つきあい始めたことだ。
すまん、と肇に頭を下げられて、身に覚えがなかった良太が、かおりとつき合っていることを告げられたのはクリスマスより前のことだった。
肇は律儀にも高校時代かおりとつき合っていた良太に気をつかったらしい。
かおりは当時のことを大切な思い出と言ってくれはしたが、そんな深いつき合いでもなく、良太としては最近肇のかおりに対する気持ちを知ってから、むしろ背中を押してやりたいくらいだったわけで、クリスマスは二人で白馬だと肇からメールがきたときは、うまくやれよ、このヤロウ! と祝福の気持ちを込めて返したものだ。
沢村の話によると、かおりの方はどうやら何を勘違いしてくれたか、良太は沢村とどうかなっていると思い込んでいるフシがある。
多分に沢村の良太に対する態度のせいだが、違ぁう! と全否定したいところを、あえて誤解を解かないでいるのは、じゃあ、誰なのよ、とでも切り返されても良太にはちょっと答えにくいからだ。
「そりゃ、相思相愛、ラブラブです~、なんて言えるような相手ならな」
部屋でひとりごちる良太の相手は、今夜も猫のナータンだけだ。
「問題は、その沢村だよな」
その名前を口にした途端、良太は思わずふうっと溜息をつく。
沢村のゴシップ記事を編集スタッフが持っていたスポーツ新聞で見たのはクリスマスの朝だったか。
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