風そよぐ107

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「ちょっと、高広、ちゃんと食べなさいよ、まとめ役がそんなにやつれててどうするのよ」
「目の前でがっつくお前を見ていると、食欲も萎えるんだ」
 いきなり現れて難癖をつけるひとみを一瞥した工藤は熱燗をぐい飲みに注いで飲んでいる。
「やっぱりこっちは涼しいっていうか、寒いわ」
「こんなところへ何しに来たんだ」
「高雄っていえばここの料理、一度食べたかったのよ。せっかく京都まで来てるんだし」
「明日も朝から撮影だろうが」
「タクシーでちょっとじゃない、平気よ」
 この大女優に対して苦言など今更だ。
 最近では新しい男を探すことにも興味を失ったのか、ストを起こして周りを振り回すようなこともない。
 前の晩にどれだけ飲んでも、撮影はきっちりこなすのが彼女の信条だ。
 まあ、寄る年波で撮影がある前の晩に飲み明かすようなことはしなくなったというのが正しいかもしれないが。
「ちょっと飲みが足りない」
 そう言ってひとみは、今度は上の階にあるバーラウンジに工藤を引っ張ってきた。
 最近、それこそあまり飲んでもいない工藤だが、悪友のようなひとみとサシ飲みも今の心境ならいいかも知れないと腕を組まれたまま店に入った。
「撮影はどうだ?」
 久しぶりにラム酒を口にしながら、工藤は言った。
「そうねぇ、終わってから山根さんが良太ちゃんと何か話してたけど」
 ひとみは上等のコニャックのいい香りを楽しんだ。
「本谷か」
「まあ、新人なんてあんなもんよ」
「お前から見て、どうだ? 本谷は」
「そうね、『田園』の方は思いのほかよかったわ。でも今のはドラマのジャンルが違うしね。それに、あの子がキーマンだから、本人も苦心してるんじゃない?」

 


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