風そよぐ117

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「ああ、まあ、子供の頃からリトルリーグとかで顔合わせてたからね」
「何か、あたしと奏ちゃんみたいな感じですね」
 この頃市川はすごく表情が明るく生き生きとしていた。
 それが、彼女の言う奏ちゃんと再度付き合いだしてからだろうことは、良太にもよくわかった。
 良太にしてみれば口の悪い不愛想で嫌味なカメラマンでしかないのだが。
 『レッドデータアニマルズ』のカメラマンとしてもうずっと仕事では顔を合わせているが、とても奏ちゃん、なんてシロモノではない。
 まあ。蓼食う虫もっていうし………。
 子供の頃からの付き合いというように、市川は有吉のそういう性格も込みで付き合っているらしいし。
 うまくいっているようで何よりだって。
 東京に戻ったら、また、その有吉や下柳と顔を突き合わせる仕事が待っている。
 工藤とはほんのちょっと話しただけだったけど、ま、話せただけいいか。
 本谷も今朝の撮影見てたら、何とかこれからも行けそうな感じになってきたし。
 オフィスの留守番をかねてネコの面倒を見てくれていた鈴木さんには、京都の定番、おたべを買った。
 静岡を通過する頃、市川も良太もうとうとと眠り込んでいて、雨が降らなければ見られるかななどと言っていた富士山も見損なった。

 
 東京駅で新幹線を降り、丸の内線国会議事堂前で千代田線に乗り換えて三つ目で乃木坂駅に着く。
 階段を上がって雨がこぼれ始めた歩道を早足に約二分ほど、良太はオフィスのドアを開けた。
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい。雨、降ってきちゃったわね」
 にこやかに笑って出迎えてくれる鈴木さんの顔を見ると、ほっとする。
「あら、おたべ! 早速お茶をいれましょうね」
 お土産の袋を手渡すと、鈴木さんはいそいそとキッチンに向かった。
 


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