プロローグ
まーったく! すぐああだもんな!
ぷりぷりしながらホテルの部屋に戻ってきた良太は、思わずベッドに蹴りを入れる。
ミラノでも超一流のホテルの一室。一人だったら到底泊まるなんてこと考えもつかないだろう、広い寝室やリビング、それにバスルーム。
これでいわゆるデラックスツインだという。
バルコニーに出て、少し風にあたっていると、ようやく怒りも少しおさまってくる。
何を怒っていたかって、答えはひとつだ。
あのエロオヤジ!
今更ながらにイタリア語をもっと勉強してくればよかったと思う。
といっても、急遽こっちにくることになった良太に、イタリア語なんか習得する時間などなかった。
腹立ち紛れに、ここに帰る前に寄った店で買った、ミネラルウォーターの蓋を取ると、ぐいっとあける。
暑いのでガス入りがスカッとするだろうと買ったのだ。
が……………。
ぷはーっと三分の一ほど一気にあけて、一息ついた良太は、喉ごし涼やかなはずが、何だか体が温かくなってくるのを感じて、思わずボトルのラベルに見入る。
「ひょっとして……これって…」
気がついたときはもう遅かった。
「そういや、あの店のオヤジ、何か言ってたっけ……、マジかよ~」
イタリア語で捲くし立てられて、買ったボトルの中身はスパークリングワイン、イタリア風に言えば、スプマンテ。
途端、頭がくらくらしてきた良太は、寝室に行くと、ボトルをテーブルに置いて、ベッドに大の字になる。
「ちぇ、なんだよ~ぉ! くどーのばかやろ~」
声を大にして喚くと、眠気が襲ってきて、良太は知らず夢の世界に引き込まれていった—————————————-。
next top Novels