一時間もたたずにミラノに着いた。
リナーテ空港からタクシーでホテルに行き、エンツォと良太を探すために放り出したスーツケースは当然のごとく元の場所から消え去っていて、工藤はまず衣類一式ミラノで揃えなくてはならなかった。
「んとに、大事なもん、入ってなかったんですかぁ? 警察に届けなくてもいいんですか」
「届けたって戻ってくるもんか。土産と服や靴の類だ」
パスポートやノートパソコンといった仕事上の大事なものは、小ぶりのバッグに入っていたのだからそう問題はない。
良太とスーツケースじゃ、どっちを取るかなんて聞くまでもないだろう。
それにしても工藤の身の回りのものといって、ちょっとやそっとのシロモノではないだろうに。それに鈴木さんへの土産だって。
そんな良太の心配をよそに、適当に見つけて入ったアルマーニのメガストアで買った新しいシャツとパンツをそつなく着こなして工藤は涼しい顔をしている。
移動するのも面倒だからと、スーツから下着まで一式その店で揃え、とっとと買い物を終えてしまった。
ホテルに一旦戻ると、ぞんざいに選んだシャツやタイの中から、工藤は良太にシャツやタイを差し出した。
「え? 俺に?」
「不服なら取り替えてこい」
「とんでもない。何かいやに若いっぽいの選んでるなと思ってた…」
内心ちょっと嬉しい良太の頭をポカリとやると、
「明日サッカーでも見に行くか」
「へ?」
工藤は良太がセリエAのポスターを見て、何だかだ言ってたのを覚えていたのだ。
せっかくだから良太を喜ばせてやりたい、とは口にはしない。
「インター・ミラノがペルージャ戦だったな。ジュゼッペ・メアッツァまで行くか」
「だって、今日の明日じゃ、チケット…」
「知り合いがいるから、手に入るだろう」
「あ、でも俺、いいですよ。今回は」
そりゃ、確かにせっかくイタリアにいるんだから、サッカー見られたらなんて思ったけれど。
「イタリアの歴史と文化を探訪したい…なんちって。ほら、やっぱ美術っつうか、絵や彫刻見たりしたいかな、と」
へへへと笑う。
工藤に疲れを取ってもらうのが第一なんだから。
久しぶりの休暇ならゆっくりしてもらいたい。良太は良太でそんなことを思う。
「絵や彫刻? お前にわかるのか?」
「バカにしないで下さいよ、こう見えても工作とか先生に誉められたんだから」
工藤はまたムキになる良太をふん、と笑った。
良太くんはいつもエネルギーに溢れてて、いいよ、とっても。
だからいつも、がんばりましたね、と先生のハナマルがついていたけど、よくできました、ってんじゃなかったなー。
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