すーっと心地よい風が良太の頬を撫でていった。
まどろみから目が覚めた良太は、はっと体を起こす。
昨夜あまり眠らされていなかったのと酒のお陰で、すっかり熟睡してしまったらしい。
時間はとっくに昼を過ぎている。
すぐに教会を出たところでのことを思い出して、また腹が立つ。
シャワーでも浴びよ、とベッドを降りてバスルームに向かおうとして、開いているドアからリビングにちらと目をやった良太は人影に気づく。
工藤はデスクに置いたノートパソコンに向かってキーを叩いていた。
ほっとすると同時に、良太は何かひとこと言ってやらなければ気がすまない。
「お早いお帰りじゃないですか」
「飯は食ったのか」
工藤は振り向きもせずに聞き返す。
「〃お知り合い〃の美人と一緒じゃなかったんですか、社長」
「いつまでもくだらんことを蒸し返すな」
良太の言葉など取り合わずにキーを叩く。
「あっそうでしたね、俺なんかに何の関係もないんでした!」
厭味たっぷりに言い残して、良太はバスルームのドアを思い切り音を立てて閉める。
腹立ち紛れに服を脱ぎ捨て、水を頭からかぶる。
ようやく湯を出してざっとシャワーを浴びると、バスローブを引っ掛けて洗面台の鏡を覗き込む。
「まだまだヒヨッコの顔してんな~」
しみじみ思う。
「あんな海千山千の伊達男に、そうそう太刀打ちできっかよ」
ふうっとため息をついた途端、ぽたり、と落ちた水滴が洗面台から吸い込まれていく。
「ちぇ…情けねー」
こんなの俺じゃない。そう思うほどに工藤に夢中なのだ。
どうにも感情がコントロールできない。
手のひらでバシッと叩いた洗面台から、石鹸がひっくり返って床に落ちた。