「いや、そんな気がするってだけで」
慌てて良太は言葉を濁す。
「食事は?」
「あ、まだだった……」
そうだ、コンビニで弁当でも買ってこようと思ってたら沢村が来ちまったんだ。
「この時間だと…、ま、いいか。行くぞ、良太」
「あ、はい」
何となく良太がごまかしているらしいのを不審に思いつつも、工藤はタクシーを拾い、この時間でもやっている割烹料理の店に連れていった。
北陸の魚介類メインの店だったが、いつもなら健啖ぶりを発揮するどうも良太が食が進まない。
「何を一人で抱え込んでいるんだ。少しは脳ミソの許容量を考えて行動しろ」
「はあ……ちぇ、自分は色々こっちに押し付けるくせにさ」
「何か言ったか」
良太が小声でブツブツ口にしたのを聞きつけて工藤は険しい眼差しを向ける。
「別に何でもないです」
良太は工藤に話そうかどうしようか逡巡したが、やはり約束は約束だから市川のことは言えない。
それに水野あきらのことも聞いてみたいのだがやはりそれも何となく聞けなかった。
あ~あ、と思いあぐねるのをやめた良太はがんがん食べ始め、しまいには手酌で日本酒を飲んだ。
「ほんとは気難しいって人みたいなのに水野あきら、すんごくフレンドリーで、こっちの意向も一も二もなく引き受けてくれちゃったと思ったら、考えられる理由は一つ、あんたの昔の女なんだろ? 高広が高広がとかいっちゃって、昔かどうかもわかりゃしない…」
言わないでおこうと思ったはずが、つい酔った良太の口が滑っていた。
「……だいたい有吉さんも有吉さんだよな……市川さん、あんなに心配させといて……」
市川と有吉のことは口にしないと決めただけに、酔った頭でもそれ以上のことは言わなかったが、工藤はそれに引っかかった。
良太が目を覚ましたのは既に明け方だった。
がばっと身体を起こした良太は、隣に眠る工藤に気づいた。
「また、俺………酔っ払っちまって……」
どうやら工藤が部屋に連れてきてくれたらしい。
時計を見ると四時になろうとしている。
ここのところ仕事もだが、面倒ごとが積み重なってろくに寝てなかった良太は、工藤の顔を見たら気が緩んで酔っぱらって眠ってしまったらしい。
パンツ一丁で寝ていた良太は、工藤を起こさないようにそっとベッドを降りると、トイレに行ったついでに酔い覚ましにシャワーを浴びる。
「色々やることあったのに」
ブツブツ言いながら顔を洗っていると、背後でガチャっとドアが開く音がした。
「あれ、わり…起こしちまっ………わ、ちょ……!」
いきなり後ろから抱き込まれ、良太は慌てる。
だが工藤が自分に欲情しているのを知ると、一気に身体の中がざわめき始める。
工藤はシャワーを止め、良太を振り返らせて強引に口づけた。
「何だよ……こんな夜中に……」
口づけの合間に並べ立てる良太の憎まれ口も次第に小さくなり、幾度も繰り返される口づけに飲みこまれてしまう。
工藤の指が良太の身体を這いまわると、良太は簡単に篭絡され、どうにでもしてほしいくらいに身体が溶けはじめる。
工藤は再び身体をくるりと反転させ、腰の辺りを掴むと一気に奥へと押し入った。
「はあっ……あっ……あっあっ…あ………!」
工藤が動くたびごとただ甘い喘ぎだけが良太の唇から洩れる。
ちぇ、小娘は強そうな男に弱いって、ひよっこもダメなんだって、このオヤジには……
もっと工藤を感じていたい……もっと…
どれだけか泣かされながらも、良太は心の中で呟いた。
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