花びらながれ20

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 有吉のことも気がかりなのはわかっているが、とりあえずやることは山積みだ。
 工藤がコートを手に立ちあがると、良太も慌てて工藤を送るためにキーを持って工藤のあとに続いた。
 赤坂五丁目辺りまで来たところで、ハンズフリーにしている良太の携帯が鳴った。
「広瀬さん、助けて!」
 市川の声がいきなり叫んだ。
「市川さん??! どうしたんだ?!!」
 車内に緊張が走る。
「追われてるの!」
「誰に? 今どこだ?」
「局内……奏ちゃんに電話したんだけど全然出なくて」
 声が小さくなった。
 どうやら市川はまだ有吉の部屋が火事になったことは知らないらしい。
「市川さん?!」
 少し間があって、また市川の声がした。
「私、やっとさっき思い出したの!」
 小さいがはっきりした言葉が聞こえたのはそれだけで、あとは聞こえなくなった。
「え、何を思い出したんだよ? 市川さん?!」
 携帯が切れた。
「やば……追われてるって、まさか犯人?」
「良太、NTVだ」
 後部座席から工藤が言った。
「え……はい!」
 良太は山王下の交差点を右折してして外堀通りへと良太はハンドルを切った。
「ああ、俺だ。志村、今夜撮影は? だったらすぐ赤坂の『万勝』に行け」
 工藤が誰かに電話をしているのが、良太の耳に入ってくる。
「小杉か? 藤田にはお前も前に会ったことあるだろう。俺が行くまで志村とうまくやっておいてくれ。そのあとは銀座の『蘭』だ。ああ、緊急だ………ああ、行ってくれ、頼む」
 フジタ自動車のCMに出ている志村を自分の代わりに行かせたらしい。
 続けて工藤はまた渋谷を呼び出した。
「……あ、ライン、市川さんだ」
 良太は赤信号で車を止めた時に、急いでメッセージを読んだ。
「え、工藤さん、報道部長の上田って、市川さん、そいつが殺された島岡と一緒に会議室を出るとこに出くわしたって」
 渋谷に電話をしていた工藤は、「何だと? 報道の上田?」と聞き返す。
「市川さん、上田に呼ばれた時、急に思い出して、部屋を出たら上田が追ってきたんで逃げ回ってるって」
 信号が青になり、後ろの車がクラクションを鳴らした。
「うっさいな、こっちは大変なんだよっ!」
 文句を言いながら、良太は慌ててアクセルを踏む。
 やがてNTV本社に着いた良太は、ジャガーを駐車場に滑り込ませた。
 そのままエレベーターで上がり、ガードマンは工藤を見ると良太と一緒にすぐ中へ入れてくれる。
 良太は歩きながら市川に「今どこにいる? 受付を通ったとこ」とメッセージを送る。
 しばしあって、五階の非常階段、と返事がきた。
「工藤さん、五階の非常階段!」
 良太はエレベーターのボタンを押した。
 エレベーターはなかなか降りてこない。
「俺、非常階段から上がります」
 良太は非常階段のドアへ走った。
 三階までは一気に駆け上がったが、四階への階段をあがるペースが落ちる。
「ちょっと最近運動不足だよな……」
 ブツブツ口にしたその時、「きゃあっ」という声が上から聞こえた。
「え、やば! 市川さん!」
 慌てて駆け上がると五階への階段の踊り場に誰かが倒れているらしいのが見えた。


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