鬼の夏休み35

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 二人とも食べている時は口数も少なく、コーヒーが出てやっと落ち着いた。
「あとでパン買っていこう。杉田さんにも」
「あ、工藤家の家事やってる人?」
「そうそう。平造さん、今、人間ドックなんで、その間きてくれてるんですけど、知ってます?」
「いや、名前だけ、逢うたことはないけど、古くからの人やろ? 藤原さんに聞いた」
「ほんとですか? 藤原さんて何者?」
 あの慇懃な藤原氏が杉田のことまで知っているとは。
「せやからな、藤原さんて、子供の頃からあの綾小路のうちで育ったらしいね。夏とか冬とかあこの別荘に来るときはもちろんついてきはったらしうて、お使いの途中で工藤家のきれいなお嬢さんに逢うて、憧れやったみたいやで」
「それが? 極妻?」
 良太は少し声を潜めて聞いた。
「せや。藤原さんが十歳くらいの時、古い資産家の工藤家のお嬢さんはこの界隈でも評判の美人やったらしい。高校生くらい?」
「ものすご美人やけどものすご勝気なひとやったて。そのお嬢さんがたまたまこの地を訪れとった当時の中山組の若と出くわして、まあ、所謂恋に落ちよったいう」
「略取とかじゃなくて?」
 良太は聞き返した。
「相思相愛。当時あっという間に二人のことが知れ渡ってしもて、工藤夫妻は、中山組まで出向いて一人娘を返してくれ、言うて談判しはったみたいやけど」
「うわ、勇気ありますね?」
「そら、掌中の珠をかっさらわれよったらな。けど、両親に引導渡したんはお嬢さんで、自分は若と一緒になる、勘当してくださいて頭下げたいう話で」
「すっげ……」
 良太はしばし、小説より奇なりな話にしばし呆気にとられた。
「俺、何か、中山組の先代が工藤さんのそのお嬢さんに一目ぼれして無理やりみたいなこと考えてましたけど」
「今、八十歳くらいか? 先代は十年くらい前に亡くなったけど、お嬢さんの方は今もバリバリの姐御や、いう話」
 良太はしかし、少し眉を寄せた。
「でも、そんな見てきたような話………」
「見てきた話やね、それが。藤原さんのガキの頃の知り合いが、親が中山組やって必然的に元中山組で、真面目なヤツやったらしいけど、そいつに話聞いたて」
「え、平造さんの他に、元中山組がいるんですか?」
 意外な展開に良太は確認した。

 


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