鬼の夏休み38

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「せやな。ホールスタッフやってた子らやけど、もう一人のオッサンは知らんけど」
 男女二人は大学生で、確か公一の大学の後輩とかいうことだったが、ちょっとごつい感じの三十代から四十代くらいの男に二人とも見覚えはなかった。
「あのオッサン、何か嫌な目つきだった」
 良太が言うと、千雪も「せやな」と頷いた。
「良太、顔つきで人のことわかるようになってきたん? 業界でもまれとるからな」
「おちょくってます?」
 千雪は笑い、「感心してんね」としれっと言う。
「おおきに」
 門の前まで来ると、千雪は車を降りた。
「七時までに来い言うのんは、懇意のレストランからシェフが来るんやけど、ビュッフェ形式やから、美味いもんは早いもん勝ち」
「ええっ、そうなんですか? じゃあ、早めに伺います!」
 美味いもんビュッフェ形式と聞いては、トロトロしていられない。
 良太は工藤の別荘に向かってハンドルを切った。
「ただ今帰りました~」
 別荘に着き、声をかけながら中に入ると、キッチンから音が聞こえた。
 杉田はキッチンにいるらしい。
「杉田さん?」
「あら、良太ちゃん。お帰りなさい」
「ただ今戻りました。これ、どうぞ。クロワッサンがすごくうまくて」
 良太がベーカリーの袋を差し出すと、「あら、うれしい! 『風の家』に行ってきたの? あそこのパン美味しいのよね」と喜んで、手についている小麦粉をぱんぱんと払った。
「あれ、何作ってるんですか?」
「フフ、三時過ぎたらね」
 杉田はいたずらっぽく笑い、使ったボールなどをシンクで洗い始めた。
 オーブンで何か焼いているようだ。
「おやつですか? 楽しみ!」
「良太ちゃんがいると、作り甲斐があるわね」
 キッチンを出て、先ほど購入したスーツの入っている袋を下げると、良太は二階へと上がった。
 ドアをそっと開けると、部屋は静かで、工藤はベッドに横たわってまだ眠っているようだった。
 良太は音をたてないように買い物袋をソファに置くと、また出て行こうとした。
「買ってきたのか?」
 抜き足で出て行こうとした良太は、工藤の声に振り返った。
「あ、すみません、起こしちゃいました?」

 


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