鬼の夏休み39

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「ああ、もう起きる。スーツ、出してみろ」
 工藤は身体を起こして、ベッドを降り、部屋履きを履くとバスルームに入って行った。
 良太は背負っていたバッグを降ろし、財布から、工藤に預かっていたカードを取り出した。
 それから、買い物袋に入っていたスーツを出して、隣のベッドに並べた。
「左のにしろ。タイはそれでいい」
「はい」
 チャコールグレイのスーツに青を基調としたカラーブロックのタイ。
 ちぇ、京助さんがいっちゃんいいって言ったやつと同じってのが面白くないけど。 
「あ、これ、ありがとうございました」
 カードを差し出すと、工藤は受け取ってポケットに入れた。
 そんな工藤をぼんやり見ていた良太は、千雪から知らされた工藤の母親の話が蘇った。
 確かに前に工藤が言ったように、自分は幸せなヤツだと良太は思う。
「何だ?」
「いえ、杉田さんがさっきお菓子作ってて、三時のお茶に呼ぶんじゃないかな」
 途端に工藤はさも嫌そうに眉を寄せた。
「……お菓子……」
 その時、まるで会話が伝わったかのように電話が鳴った。
「はい、起きてますよ。わかりました、すぐ行きます!」
 杉田からで、お茶をしましょう、という電話だ。
「工藤さん、三時のお茶だそうです」
「……いや、俺は……」
「ダメですよ、杉田さんせっかく作ってくれたんですから」
 いいと言おうとした工藤の言葉を良太が遮った。
「ほら、行きますよ」
 良太はドア口で振り返って工藤を促した。
 苦々しい顔で、工藤は部屋を出る。
 こういう時、昔ならつい煙草に手が行くのが常だったが、最近は自分だけでなく周りにも害があるなどと言われて、禁煙までは行かないが、ポケットに煙草を入れるのはやめている。
「さあさ、座って下さいな、ほら、ぼっちゃんも」
 良太は吹き出しそうになるのを何とか堪える。
 工藤はさらに苦虫を噛んだような顔で、それでも良太の向かいに座った。

 


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