綾小路の別荘に着くと、門の前には一人お仕着せを着たスタッフが立っていて、車に近寄ってきたのでパワーウインドウを開けると、お名前をと聞かれたので、良太は工藤と広瀬だと答えた。
すると門が開いて、良太は車をゆっくりと進めた。
昨夜と同様車寄せでは藤原とスタッフが出迎えてくれて、良太はスタッフにキーを預けた。
ただ、何かしら引っ掛かりがあるような気がして、一度振り返ったが小首を傾げつつ、藤原に案内されて工藤とともに中に入っていった。
ホールからリビングへと扉が開かれ、二月にのんびりスキー合宿した屋敷内は、スーツやドレスをまとった紳士淑女が所狭しと集っていた。
何かのイベントかアイドルのコンサートみたいだ。
良太は通り過ぎた女性のきつい香水にむせ返りそうになった。
紫紀と小夜子は昨夜とは打って変わって、かっちりとした黒のスーツと黒のイブニングドレスで二人を出迎えた。
「連日ご足労頂いて恐縮です。後ほどお話を。良太ちゃんもそれまで美味しいもの食べて待っててください」
紫紀はそう言いおいて、二人は新たな客に挨拶に向かった。
昨日と同様、ホールスタッフが何人かトレーにグラスを乗せて歩いているが、今日はみなお仕着せに身を包んでいる。
女性スタッフからノンアルコールのグラスをもらった良太は、はっと気がついた。
ホール内を見回すと、昨夜と同じスタッフの顔が目に入った。
あの子だ、そうだ、藤原さんと一緒にいた男って、さっきあの子と一緒に外で何か揉めていたやつだ。
もう一人、年配の男が怒ったような顔をしていた。
何か気にかかる。
だが、何なのかわからない。
口論していたからって、別に何も関係ないことだ。
良太は近くのテーブルにグラスを置くと、「何かもらってきます」とばかりにレストランのシェフによるビュッフェへと向かった。
皿を持って一口大に切ったステーキから始まって生ハム、サラダ、鶏肉のクリーム煮など、順番に取っていく。
「あら、良太ちゃん、今夜も来たの? おりこうさん」
ちょっとおちょくったような言い草で話しかけてきたのは、今夜は大きくスリットの入った黒いチャイナドレスの理香だ。
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