鬼の夏休み43

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「おりこうさんとか、俺もういい年なんですけど」
 良太はきっぱり言い返す。
「あら、そうだった? 大ちゃんくらいかと思ってたけど」
 うっと良太は一瞬言葉をなくす。
 大ちゃんって、紫紀さんの息子の?
「俺こう見えてもう大学卒業して、会社入って数年経ってます」
「そうなの?」
「千雪さんの後輩になります。夕べも社長のお供ですって言いましたけど」
 千雪の名前を出せば少しはまともに見てくれるかという期待を込めて良太は言った。
「そうだった? 夕べ酔ってたから。でも可愛くていいじゃない」
 暖簾に腕押しとはこのことだ。
 良太はもう抗議するのをやめた。
「あ、そこのローストビーフ、美味しいわよ。そっちのフルーツトマトとモッツアレラも最高」
「はあ」
 美味しいものならいただこうと、良太は両方とも皿に取ったので皿は一杯になった。
 皿をもう一枚重ね、フォークを二つ取る。
「会社ってどこだっけ?」
「え、青山プロダクションです。一応プロデューサーです」
 良太は、プロデューサー、を強調する。
「っていうと、ひょっとして工藤さんのとこ?」
 俄然、理香の目が輝いた。
「そうですけど、昨夜も今夜も一緒に来てますよ」
 胡乱気に良太は理香を見た。
「やだ、そうなの? 工藤さんて苦み走って素敵な方よね? 以前、番組でご一緒したことがあるのよ」
 うわあ、こんなとこに工藤フリークがいたなんて!
 そうか、昨夜、工藤、紫紀さんとずっと話していたから気づかなかったのか。
「番組って……」
「ドキュメンタリーで、うちの親とか茶道家元とか扱った番組。もう十年以上前になるかしら」
「工藤がまだ局にいた頃ですか? だったらもう今は、苦みだけのオッサンになってますけど」
 つい、けん制のつもりで良太はそんな風に言ってみる。
「あら、オッサンいいじゃない? 紹介してよ」
 ムッとした顔のまま良太は理香と一緒に歩き出したが、理香は有名人らしく、あちらこちらから声がかかる。
「理香、可愛い子連れてるわね」
「おい、若すぎるだろ? その子」
「弟とか言うなよ?」
「紹介しろよ」
 みんなどこかええとこのボン、お嬢、といったところか。

 


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