鬼の夏休み49

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「はい。何か御用でしょうか?」
 小谷はにっこりと営業スマイルを向けた。
「忙しいところゴメン、実は京助さんから頼まれて」
「え、京助さんに?」
 途端に、嬉し気な態度に変わった。
「小谷さんを連れてきてほしいって。ちょっと一緒に来られるかな?」
 良太も、いつぞや演技で悩んでいた本谷に、そのまま普通でやればいい、などと偉そうなアドバイスをしたことを思い出しながら、極力自然な笑顔を作った。
 俺だって一度くらいはドラマに出たことがあるんだからさ。
「はい!」
 満面な笑顔で小谷が返事をした。
 騙しているのがちょっと申し訳ないが、仕方がない。
 良太は小谷に不自然に思われないよう、目いっぱい笑顔を向けていたので、その様子を工藤が見ていたのに気づかなかった。
 何だ、あいつは。
 あんな女にデレデレしやがって。
 目を眇めるようにして二人を睨み付けていた工藤は、自然と怖い顔になっていた。
「工藤さん、どうかなさったの?」
 そんな工藤を見て、理香が尋ねた。
「あ、いや、知った顔があった気がしたが違ったようだ」
 あの野郎、いったいどこに行くつもりだ。
 イラつきながら工藤は良太を見たが、やがてリビングを抜けところまでしかわからなかった。
「ここで待ってて下さいますか?」
 良太は談話室のドアを開けた。
 ここは、スキー合宿の時には訪れたメンバーがひとまず通された部屋で、あの時は荷物や土産や酒などがそこかしこに置いてあった。
 ソファセットと壁際にはアップライトのピアノがひっそりと置いてある。
 ちょうど窓からは昼間なら、玄関からの風景が見えるようになっていた。
 小谷はソファに座って、ちょっとそわつきながら足を組んだ。
 可愛い系の顔ときれいなアッシュブラウンの髪を後ろで結わえ、清潔そうなコスチュームが似合う、普通の女子大生に見える。
 良太は傍に立って京助を待っていたが、一瞬小谷がフッと鼻で笑ったような気がした。
 


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