鬼の夏休み63

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 フン、素人に犯罪者を捕まえさせて、警察は何をやってるんだ。
 これだから警察なんざ信用できないんだ。
 俺なんかをマークする人員を、もっと人の安全を守ることに尽力させろよ。
 祖母や伯父がそうだからといって、俺の首を狙うとか、実にくだらない。
 だが、工藤に何かしらの脅威が迫った時、陰で工藤をガードする役目を担っている男、波多野からは、思わぬ刺客が忍び寄っていることもあるから気を付けろとは言われている。
 しかも警察内部に暴力団同士で相打ちにさせて潰そうと画策している者がいるらしく、工藤自身にも害が及ぶ危険性があるとも。
 かつて汚職で失脚した桜木元外相の息のかかった輩が工藤を貶めるべく虎視眈々と狙っているというのだ。
「桜木元外相は失脚して表舞台からは退いたものの、フィクサーとして裏で暗躍しています。あなただけでなく、直接失脚に関係した荒木検事のことも執拗に根に持っており、隙あらば寝首をかかれかねません」
 いつか波多野がそんなことを言っていた。
 フン、ちゆきの命にかえた諌死もあのクズ男には毛ほども通用しなかったわけだ。
 もう二十年ほどにもなるのか。
 工藤の恋人で、荒木、小田とともに同じゼミで学んでいた桜木ちゆきは、父親である桜木元外相が、業者と癒着、汚職に手を染め、内部告発をしようとした官僚の死にも関わっているということを知り、己の死をもって父親を諫めようとした。
 もとより工藤が中山会の組長の甥であることで娘のちゆきを軟禁していた矢先のことだった。
 ちゆきと工藤の連絡役を買って出てくれた家政婦の宮坂からその死を告げられた。
 彼女の部屋の前にあった桜の大木の元で花びらに埋もれるようにちゆきは倒れていたと。
 工藤は絶望と怒りに一時は荒れた。
 以来桜の花を見なくなった。
 ついこの間までは避けていた。
 長い付き合いの今や大御所女優となった山内ひとみには、昔話にセンチメンタルしている情けない男と罵倒されてきたが、強面で恐れられているはずが実は確かに情けなさ極まれりだったのだと、工藤自身もわかっている。
 だがその呪縛からいつの間にか解放されていた。
 気づいたのはつい最近のことだ。
 それが、この、フレンチトースト、うんまーい、と無邪気に喜んでいる、ガキ面の良太のお陰だとは笑える。
「くれぐれもあなたのアキレスが良太だと知られないようにすることです」
 波多野にはそう釘を刺されているものの、渋谷でのロケで良太が倒れたのを見た時は、そんな忠告などどこかにふっとんでいた。

 


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