鬼の夏休み64

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 良太が目を覚ますまで生きた心地がしなかった。
 今でもヒョロっとした良太が面接にやってきた日のことはつい昨日のように覚えている。
 小さいながらも着実に業績を伸ばしているが万年人手不足のため、母校に毎年社員の募集をかけているものの、一人か二人面接に来ることもあったが、俺の伯父貴は中山組の組長だ、それとわかってやる気のないやつは帰れとばかり、工藤が露悪的に脅しをかけると、大抵回れ右して帰って行く。
 ちょうど不景気が日本中をどんより覆っているような年だったからか、面接に四人の学生がやってきて、三人はそれなりに体力も知力もありそうなメンツだったが、一人、痩せてリクルートスーツが浮いているような場違いなのが混じっていた。
 しかし案の定、工藤が中山会組長の甥云々と口にすると四人とも腰を浮かしたので、根性のないやつらだ、と怒鳴りつけようとしたところが、何と一番脈のなさそうな痩せっぽちなガキが一人、浮かせた腰をまた下ろしたのだ。
 こんなひょろっとしたガキが、俺のもとで続くとは思えなかった。
 どうせそのうち音を上げて、逃げ去るのが関の山だと思ったものの、とにかく人手不足だった。
 とりあえずやらせてようすを見るかくらいなものだった。
 それがどっこい、業界では鬼と呼ばれて久しい工藤が怒鳴りつけようがあれをしろこれをしろとパシリをさせようが、なかなかどうしてへこたれず打たれ強かった。
 どころか生意気にくってかかる、文句を言う、何より鈴木さんと仲良く昼飯を食い、笑うのだ。
 鈴木さんだけではない、業者、局関係者の間でもいつの間にか言葉を交わし、可愛がられている。
 良太を面白いやつ、と思ったのはその頃だ。
 ダークな世界に生きてきた自分とはまるで違う世界に生きていただろう良太とが、接点を持つこと自体、何かの間違いだったのかもしれないが。
 目が離せなくなった。
 良太が妙なバイトを始めたと思ったら、ぼこぼこにされて会社の前に倒れ込んでいたりしたので、鈴木さんに事情を聞いたところ親の負債のせいだとわかり、アパートに胡散臭い債権者が取り立てにやってきているらしいと知った工藤は、良太のアパートの張り紙から闇金業者を突き止め、事務所に乗り込んだ。

 


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