鬼の夏休み67

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 コーヒーを飲み干すと、良太はキッチンで後片付けをしている杉田さんのところへカップを持って行った。
「あら、ありがとう。午後には帰っちゃうのね、またいらっしゃい」
「はい、また来ます」
「あ、そうだ、東京のオフィスの方にお土産にと思って、またケーキを焼いてきたのよ。冷蔵庫に入っているから、持って行ってね」
「ほんとですか?」
 ウキウキと良太は早速冷蔵庫を覗く。
 ショートケーキだ。
「箱に入れて、保冷剤たくさんいれれば二、三時間くらい大丈夫よ」
「ありがとうございます! 鈴木さんも喜びますよ、きっと」
「鈴木さんにもよろしくおっしゃってね」
「はい!」
 良太には、杉田さんがちょっと寂しそうに見えた。
 平造は青山プロダクションの社員だからたまに東京に出てくるが、杉田さんはあくまでも工藤家の家政婦である。
 青山プロダクションの面々や工藤が軽井沢に行った時しか会うこともないが、かつては夏も冬も休みはよく軽井沢で過ごしていたという曾祖父母と赤ん坊の時から面倒をみてきた工藤は、もう一人の息子のような存在なのかもしれない。
 元々軽井沢の住人で、娘や息子は二人とも結婚して東京にいるらしく、今は教員をリタイアした夫と二人暮らしのようだ。
「明日は平造さん、病院から出てくるのよね」
「ええ、またよろしくお願いします」
 杉田さんが工藤にとって軽井沢の母親なら、平造は父親みたいなものだろう。
 実際は、工藤の祖父の舎弟ということらしいが、子供の頃に拾われたとはいえ、工藤の祖父にとってはものすごい忠義の人だ。
 人それぞれ、人生も生きている人の分だけあるわけだが、本当に色々な人生があるものだと、おそらくこの会社に入らなければ知らなかったような平造のような人生を垣間見て、良太はしみじみと思う。
 それにしても、工藤には言わないが、千雪から聞いた話によると、工藤の祖母というのは実に奔放な人だったようだ。

 


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