鬼の夏休み69

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「じゃあ、平さんが戻ってくるまで、あとを頼みます」
 玄関前に車をつけ、荷物をトランクに入れると、工藤は杉田さんに言った。
「わかってますよ、お任せください。お気をつけて」
 杉田さんは車が門を出るまで見送っていた。
「今日もすんげいい天気ですね。きっと東京暑いよな」
 助手席に座った良太は窓から空を眺めて言った。
「東京も涼しきゃ、避暑に行こうなんざ思わないだろうが」
 ったく、どうしてこう身もふたもないことしか言わないんだよっ!
「はあ、まあ」
 まあ、こういう人だけどさっ!
 昔は女にもててたとかって、きっとあれだよな、こんな性格だからすぐダメになるから次って感じだったんじゃないのか?
 ひとみさんなんか三カ月で振ってやったとかって豪語してるし、ズケズケ工藤にものを言える貴重な存在だけどな。
 まあ、きっと、恋人って思える相手はちゆきさんだけだったんだろうけど。
「工藤さんを育てた曽祖父が先に亡くなり、曾祖母が亡くなる時、先代の奥方が工藤家の弁護士を後見人に、平造さんを親代わりにしたいう話や。良太はそのうち、工藤さんからちゃんと聞いたったらええわ」
 不意に先日話してくれた千雪の言葉が良太の脳裏に蘇った。
 母親のことは記憶にもないだろうけど、恋人のちゆきさんのことはやっぱやりきれないよな。
 だからこんなメンドクサイ人になったんだよ、この人。
 けど、工藤から直接聞くってもな。
 なんでそんなことを聞くんだ、とか切り返されるのは目に見えてるし。
 というか、お前に何の関係がある、などと言われるのは、良太にはきついので、極力避けていると言った方がいいかも知れない。
 ちゆきさんのことにせよ、工藤家のことにせよ。
 俺んちはまあいろいろあったけど、複雑とかって言葉とは無縁だよな。
 杉田さんのケーキは美味しかったけど、なんか、母さんのブラウニー、食べたくなったな。
 そんなことを口にすれば、マザコンはいつになったら治るんだとかなんとか、工藤に嫌味を言われそうだから、やっぱり絶対言わないが。

 


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