鬼の夏休み71

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 そう思うと、げんなりする良太だが、こんな工藤が運転して二人でドライブなんてことも滅多にない。
 電話もないし、今のうちに楽しんでおこうっと。
 雲の形が猫だ! あんな山ありましたっけ? ほんとに空、ピーカンだあ!
 良太はいつもの苦々しいい顔でハンドルを握る工藤に、思ったままを話しかける。
 大方良太が一人で喋っていたが、やがてアクビが出たと思うと、知らず知らずのうちに良太は眠ってしまい、起こされたのは会社の駐車場に着いてからだった。
「え、俺、寝ちゃったんですか?」
 しまった、と思うがもう遅い。
 運転している工藤のためにも起きていようと思ったのだが。
「ただ今戻りました!」
 ちょうど三時のお茶には間に合ったので、良太は早速鈴木さんに、杉田さんからのケーキを渡した。
「お帰りなさい! あら、嬉しい! 何だかケーキが食べたいって思ってたとこなのよ!」
 お茶を入れるという鈴木さんがキッチンに入っていくと、良太は荷物を持って自分の部屋に上がった。
 ドアを開けるなり、猫たちから大歓迎を受けてすりすりされながら、良太は荷物を運び入れた。
 オフィスに降りていくと、既に工藤は奥のデスクで電話をしている。
「お茶が入りましたよ」
 窓際の大テーブルには、ケーキと紅茶が並んでいる。
 お昼になさってくださいな、と杉田さんに渡されたサンドイッチも持って、良太はいそいそとテーブルに着く。
「工藤さん、こちらで召し上がりません?」
 受話器を置いた工藤に、鈴木さんが声をかけた。
「お茶だけいただきます」
 工藤が席を立って大テーブルまできたところで、良太が言った。
「工藤さん、来週お誕生日なんです」
 途端、工藤の目が剣呑な光を放って良太を睨み付ける。
「あら、そうでしたわね! じゃあ、早めのバースデイケーキでしたのね」
 お座りになって、と鈴木さんが大きめにカットしたケーキを工藤の前に置いた。
 このガキ!
 怒りの眼差しで、工藤は心の中で良太を怒鳴りつけた。
 年配の女性には逆らえない工藤は、忌々し気な顔でケーキを一口飲みこんだ。
「美味しい! 杉田さん、ケーキ屋さんができそうなくらいね」
「ほんと! 美味い~!」
 それでも、良太と鈴木さんが笑顔をかわすのを見て、ほんわかと幸せそうな、しばしの安穏なひとときに、微かに笑みを浮かべる工藤だった。

  おわり


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