鬼の夏休み9

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「まだいいか?」
「どうぞ、今日最後のお客様ですね」
 そういうとドアのボードをクローズドに変え、厨房に入っていった。
 今は、店はホールスタッフ一人と吉川だけでやっているが、繁忙期には、ヘルプでもう一人年配のスタッフを頼んでいる。
「今日はオマール海老のグリル、牛フィレ肉のアッローストがおすすめです」
 ホールスタッフの今井青年とも二人は馴染みで、工藤が魚介を好むのをよく知っている。
「俺はオマール海老を、お前は牛フィレ肉だな?」
「はい、もちろん」
 大きく頷いた良太は、メニューを見ているだけで、涎が出そうになる。
 ここのところ、外に出ることが多く、大した食事を取っていなかった。
 夜十時頃に部屋に戻ってからの、コンビニ弁当が比較的まともな食事だ。
 ちょうど明日あたりから少し楽になると思っていた矢先の軽井沢だ。
 工藤はスプマンテを飲み、良太はブルスケッタを齧りながらミモザを飲んだ。
 続いて出てきたカルパッチョを食べ終えると、牛フィレ肉と一緒に出てきたルッコラのサラダも「これ、うまいっすね」などと言いながら、パクパクと平らげた。
「それだけガッツリ食えば、シェフも作りがいがあるだろうさ」
 健啖ぶりを発揮している向かいで、キャンティを飲みながらオマール海老をつついている工藤は言った。
「工藤さんはもっときっちり食べた方がいいんじゃないすか? 食事は大事です」
 苦笑を漏らしながら工藤はワインを手酌で継ぎ足した。
「平さん、人間ドックですって?」
 吉川がやってきて声をかけた。
「ああ。年一回はかかった方がいいだろう、年も年だしな」
 工藤さんもじゃないですか、と口にしそうになった良太だが、危うく言うのをやめた。
「それ、工藤さんもじゃないですか?」
 良太が言い損ねたセリフを吉川がするりと言った。
「平さんが、心配してましたよ? 社長はいくら何でも働き過ぎだって」
 吉川に乗じて良太も「そうですよ、いい年なんだから」と大きく頷いた。

 


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