春雷2

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 宇都宮も小笠原も気合が入っていて、ワンシーンの撮影ごとに、監督や坂口らと細かい打ち合わせをしてから撮影に入り、カットがかかるたびにモニターで確認しながら常に二テイクから三テイクは当たり前という念の入れようである。
 宇都宮と小笠原のシーンでは何度も二人で顔を突き合わせて納得のいくまで話し合う光景が何度もみられた。
 路地裏では乱闘シーンもあるため、時間の経つのも忘れて撮影が続けられた。
 良太はなるべく撮影が行われている全体を俯瞰で見るようにしている。
 中で動いている人にはわからないことも時としてあるからだ。
 滅多に言葉を挟むことはないが、何度も撮影に立ち会ううち、監督やスタッフ、俳優陣それぞれの作品に対する考え方や動きなどが把握できるようになってくる。
 ちょうど休憩に入った頃、森村から電話が入った。
 撮影が思いのほか早く終わりそうなので、夕方までにはこっちに回れるということだった。
「それは助かる。そういえばモリー、次のADの仕事はいつからだっけ?」
「あ、ええ、夏前に一度集まることになっているんですけど、あ、でも、もしこっちが忙しければ、向こうは俺がいてもいなくてもたいして変わらないし」
「何言ってるんだよ、やりたいのはそっちの仕事なんだろ? こっちはあくまでもバイトでいいから、遠慮しないで言ってくれよ」
「ありがとうございます」
 電話を切ると、いつの間にか陽が落ち始めていた。
 これは亜弓との約束である六時に三越のライオンの前までには撮影が終わらないかも知れないと、良太は思う。
 そこへうまい具合に森村がやってきた。
「妹さんとの約束、もうすぐですよね。行っちゃっていいんじゃないですか? 突拍子もないことが起こらない限り、連絡しませんし」
 良太は笑った。
「悪いな。この近辺でメシ食う予定だから、突拍子もないことじゃなくても、何かあったら連絡入れろよ」
 そう言うと、監督に挨拶をしてから、良太はロケ現場を離れた。
 人混みをぬって、デパートの前まで慌てて駆けつけた良太は、亜弓の姿を見つけたが、その横に立っている男に気づいた。
「悪い、遅くなって」
 約束より十分遅れで走り寄った良太に、「わかってるわよ。ロケだったんでしょ?」と言う亜弓は、良太が知る亜弓より何となく大人びて、尚且つ兄の欲目だけでなく綺麗になったような気がした。
「紹介するね、本宮正紀さん。同じ研修に来てたの」
「どうも、亜弓の兄の良太です」
 ちょっと不意打ちをくらったものの、良太は卒なく自己紹介した。
 すると本宮は満面の笑みを浮かべて、「お噂はお聞きしてます。本宮と申します」とハキハキとしたテノールで答えた。
 自分より五センチは目線が上だと、良太は本宮を見た。
 鍛えているのだろうしっかりした体躯にスーツもよく似合う、きっぱりとした二枚目という感じの男だ。 
 


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