自分に紹介するということは、今までの経験から亜弓はおそらくこの男と付き合っているのだろうと良太は理解した。
ただ、ここ数年そういうことはなかったのは、やはり家のことで色々があったからだろう。
母親からは亜弓が付き合っている相手がいるらしいと聞いたことはあるが、紹介するまでもなかったようで、宇都宮に会ってから夢中になっているらしいのを良太は密かに心配していた。
両親はまさしく能天気なだけあって、どんな環境にあっても二人で楽しく生きて行ける人達だが、家族の中で一番しっかり考えているのは亜弓だろう。
奨学金はもらっていたのだが、亜弓は家のことを考えて、一度は大学をやめようとさえしたこともある。
今は社会人になり、教師として生き生きとしている気がしていた。
「あ、ちょっと待って、食事、一名追加してもらうから」
良太はポケットから携帯を取り出した。
「あ、申し訳ありません、急に」
本宮はすまなそうに言った。
「フレンチとかでも大丈夫かな?」
「はい、俺は何でも」
たまには亜弓をちゃんとしたところへ連れて行こうと思った良太は、先日竹野を接待したレストランを予約していた。
ダメなら他を当たるしかないかと思いながら店に電話を入れてみると、すぐに追加してくれた。
本来なら簡単に追加はできないだろうが、店によってはやむを得ない場合やVIPなどの急な来店に備えて一人や二人は対応できるようにしている。
VIPでなくとも竹野と一緒に行ったことで、融通を聞かせてくれたかもしれない。
「ねえ、フレンチで二人きりで食事とか、写真撮られたりして」
デザートをぺろりと平らげた竹野が面白がって言った。
「俺とじゃ、話題にならないでしょ。接待だってわかり過ぎるし」
苦笑する良太に、「何よ、ちょっとは焦ってみたりしたらどうなのよ」などと竹野は文句を言っていたが、千雪と対談できたことで竹野は終始機嫌がよかった。
先日、今のドラマの原作者である小林千雪との対談のあとで、主演の大澤や端田、小林千雪にも声を掛けたのだが都合がつかず、二人だけの食事となった。
竹野のマネージャー佐田を誘ったが丁重に断りを入れられ、食事のあとは、ワインを結構飲んで酔った竹野を良太がマンションまで送り届けたのだ。
「OKだって。ここから歩いて五分くらいだから」
良太は二人を促して歩き出した。
「本宮さんも亜弓と同じ学校なんですか?」
当たり障りのないことから良太は聞いてみた。
品川のカンファレンスセンターで教員のための研修が今日明日開催され、亜弓はそれに参加すると言っていた。
「いや、静岡市内にある別の高校に勤務しております。亜弓さんとは、前回開催された研修でたまたま知り会いまして」
それで付き合うようになったってことか。
良太はその後の言葉を勝手に埋める。
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