「うわ、ここ知ってる! 五つ星レストランじゃない?」
Blancという名前の通り、外装も内装も白を基調としたシンプルな造りで、テーブルや椅子も非常にシンプルなデザインだ。
「お兄ちゃん、大丈夫なの? ここ高いでしょ?」
店に入る前に亜弓が良太にこそっと耳打ちした。
「たまには任せとけって」
三人が中に入ると、メートルドテルの岩崎がすぐにやってきた。
「広瀬様、本日はご来店ありがとうございます」
「すみません、急に追加をお願いして」
「いえ、大丈夫です。どうぞ、お席にご案内いたします」
テーブルに案内されると、メニューを開きながら、良太はあらためて向かいに座った二人を見た。
身びいきだけでなく亜弓は美人に磨きがかかったように思うが、化粧や整形で作られたものではなく、ナチュラルで内側から滲み出てくる表情がきれいなのだ。
それに、この本宮という男も表情がいいし、亜弓の相手としてケチをつけるところはない。
もちろん、今のところだが。
「何? お兄ちゃん、まるでお得意様みたいじゃない?」
亜弓が言った。
「こないだ接待でここ使ったからだよ。仕事の役得?」
「ふうん」
偶然同じ大学だったのだと、亜弓は本宮のことを説明した。
学部が違ったし、二学年上だったからお互い知らなかったのだらしい。
今回は、いじめや多様性への対応などに関するテーマでシンポジウムやパネルディスカッション、講演会があったのだと本宮が説明した。
「俺は数学を教えていますが、うちは男子校なのでうるさいばっかですよ」
本宮は私立の高校出身で、母校の教師をしているという。
「中学だってうるさいわよ。でも面倒なのがモンペよね」
亜弓は公立の中学に勤務しているが、生徒ももちろんだが、問題は親なのだと以前話していた。
そういう親はモンスターペアレンツと呼ばれている。
「いやあ、モンペにはほとほと手を焼いてる。すげえのがいるし、うちはもう俺が高校ん時から」
教員の世界も大変なのだとは、亜弓の話から良太も初めて知った。
「どこの世界にも厄介ごとはありますよね」
しみじみと言った良太に、「いやあ、芸能界とか、そういう世界は、もっと大変ですよね、きっと」と本宮が言った。
「まあ、何と言うか魑魅魍魎が闊歩する世界と言うか」
良太は軽く茶化して言った。
「ほんと、大変そうですね」
本宮は心配そうな顔になった。
「いやいや、先生たちは、子ども達の生き方を導いていくみたいな世界だから責任も重いでしょうし」
「そういえばうちの高校出身で、俳優やってる子もいるんですよ」
本宮の表情はくるくる変わる。
「へえ、どなたですか?」
「斎藤博臣っていう」
「超人気俳優じゃないですか」
大手の事務所所属で、最近主役を張ったりするイケメンの若手だ。
「広瀬さんも芸能事務所なんですよね? 確か、ドラマやCMにも出られたとか」
「え、いやそれって、たまたまピンチヒッターってだけで」
良太はジロリと亜弓を睨む。
「お前、俺のこと何て説明してるんだよ」
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます