春雷5

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「前にドラマにも出てたって言っただけよ。だって、ほんとのことでしょ?」
 悪びれもせず、亜弓は言った。
「最初お目にかかった時、さすがオーラがあるなって思いました」
「はあ? 俺はほんと裏方で、オーラなんてとんでもない」
 俺にオーラなんて、じゃあ宇都宮さんとかどんなすげえオーラだよ。
 心の中で突っ込みを入れる良太に、「実はお会いするまで、もっと渋い俳優さんかと想像してたんです。野球やってらしたとお聞きしてたんで」と本宮は続けた。
「いや、だから俺、俳優じゃなくて、あ、すみません、忘れてた」
 良太はブリーフケースから名刺を取り出して本宮に渡す。
「プロデューサー、ですか? 俳優はやらないんですか?」
「ええ、そういう器ではありませんよ。裏方でドラマ制作する側の仕事です」
「そうなんですか。なんかもったいない感じですね」
 本宮はいかにも残念そうに言う。
「いやいや、とんでもない」
 良太は苦笑する。
 身長は少し高いくらいだが、大学までラグビーをやっていたというだけあって本宮はいい体格に合わせて食べっぷりもガッツリ系だ。
 別に本宮に対抗したわけではないが、腹が減っていた良太も出てくる皿をいつものようにパクパクと平らげる。
「何か二人とも、もうちょっと味わって食べたら? ちゃんと何食べたかわかってる?」
 デザートになった時、呆れたようすで亜弓が言った。
「いや、すごく美味かったけど」
 本宮が笑顔で言った。
 良太は車なのでノンアルコールワインを飲んでいたが、ワインも亜弓と二人で軽く一本空けている。
 本宮に笑顔を返した亜弓を見て、今度は本気度高いのかな、と良太は思う。
 コーヒーが出ると、本宮が急に姿勢を正して良太に向き直る。
「あ、すみません、ちゃんとご挨拶しとこうと思ってたんですが、知り会ってから何回か会ったりはしてたんですけど、つい先日、亜弓さんにお付き合いを申し込んで、OKしてもらったところです」
「そうですか。よろしくお願いします」
 良太がさらりと言うと、「ちょっと、お兄ちゃん、簡単すぎない? 宇都宮さんの時は何だかんだと文句言ってたくせに」と亜弓が言い出した。
「え、誰? 宇都宮さんって?」
 驚いた顔で本宮は亜弓を見つめた。
「宇都宮俊治さん。こないだ、お兄ちゃんの会社で家族サービスイベントの時も、撮影見学させてくれたり、お茶をご馳走してくれたり」
「って、俳優の?」
 本宮は真剣な顔になる。
「いやだから、宇都宮さんは俳優で、付き合う付き合わないとかじゃないだろ」
 眉を顰めて良太は亜弓を窘める。
「だって、お兄ちゃんが怪我した時、わざわざ会社まで駆け付けてくれたんでしょ? 忙しい俳優さんが、よほど親しくないとそんなことしないんじゃない?」
 良太は亜弓の言葉にちょっとぎくりとするが、宇都宮とのやり取りなど良太と二人だけしか知らないことだと思い直す。

 


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