「私はいいわよ」
サラッとアスカは頷いた。
「え、でもアスカさん、体調は?」
秋山は心配そうに聞き返す。
「ピアノなんて、逆に体調にいいに決まってるじゃない」
「なら、いいですけど」
秋山がバレンタインデーだろうが何だろうが、アスカの体調のことの方が気になるらしいのを見ると、やはり佐藤とは何でもないのだろうと良太は結論付けた。
しばらくはきっと、アスカも今まで通りの秋山との距離を保っていくつもりなのだろうとも思われた。
「アスカさん、結局、秋山さんに好きって言わないんですか?」
日をまたぐことなく何とか撮影は終わったので、良太の車に続いて青山プロダクションの駐車場に車を入れると、車から降り立った森村がボソリと言った。
「みたいだね。現状維持ってとこだろう」
「うーん、俺なら好きなら好きって言っちゃうけどな。じゃないといつ付き合うの?」
良太の答えに、森村は不服そうだ。
「多分、秋山さんが一度婚約者に手痛い目に合っていることを考慮して、アスカさん、もう少し待つんじゃないかな」
「ああ、うん、なるほど」
カップルなら最初からイチャイチャもいいが、中には静かに思いを育てていくような二人がいてもいいだろうと、良太は何となく思う。
「ってか、モリー、彼女が欲しいって言ってるのに、いいなって思う子、いない?」
「そうだね、何か、ダメ。ピントが合う子がいないっていうか。俺が見るとどの子も視線を逸らしちゃって、俺、嫌われてる?」
良太は笑った。
「嫌われてるんじゃないけど、多分、アプローチの仕方が違うんじゃないか?」
「ああ、そうか。難しい。パーティとかあんまりやらないでしょ。スキーの時がちょっとパーティだったよね。今までに会った中では直子が一番話が合う気がするけど、直子は佐々木さん一直線って感じだし」
「まあ、確かに、そんな感じに見えるよね」
傍で見ていると、佐々木と直子はよくできたカップルというイメージだ。
「でも、佐々木さんは沢村と付き合っているわけで、直子は平気なのかな」
森村は首を傾げる。
「うん、でも、想いは人それぞれだし」
良太は自分でそう口にしてから、ああ、そうなんだとあらためて研二のことを少しだけ理解したような気がした。
「まあ、いいんです。俺、ちょっと前まで、何か焦って恋人がほしいとか思ってたけど、それこそ少し冷静になってみようかと思って。あ、でも………」
森村が少し言葉に詰まる。
「何?」
「合コンって、行ってみたい。アメリカにはないシステム」
ハハハと良太は笑う。
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