「そりゃ、仕事で世話になっているからな。今のロケも宇都宮さんとうちの小笠原だし」
「え、そうなの?」
亜弓の声のトーンが上がる。
「あのさ、今は本宮さんとお付き合いしますって話だろ? 本宮さんに対して失礼だろ」
すると亜弓もちょっと肩を竦める。
ここで本宮も仕切り直したように、「あの、申しあげておきたいことがありまして」と言う。
「はい」
本宮は亜弓と付き合っていると話した時より、何となく話しにくそうな顔をしている。
何だろうと良太が思っていると、実は、と本宮が切り出した。
「今回の研修のテーマもいじめや昨今よく耳にする多様性とかに関してだったんですが、前回、亜弓さんと知り合った時の研修のテーマも、マイノリティってやつで、やはり学校でもその対応というか、難しい問題ではあるんですが」
「はあ」
本宮は何かマイノリティとかにこだわりがあるのだろうか、と良太は本宮の顔を見た。
「私は今までも差別とかマイノリティとかに対して、普通に受け入れられると思っていました」
俺、が私に変わり、本宮がマイノリティがどうのと言い出したところで、まさか亜弓が良太と工藤のことを本宮に話して、それに対して何か文句でもあるのだろうか、と良太は一瞬危惧した。
そんなことで亜弓との付き合いを左右するようなら、こっちから願い下げだ、くらいなことを考えた良太だが、本宮の次の言葉は意外なものだった。
「実は弟のパートナーは男でして」
しばし間があった。
「親の仕事の関係で、子供の頃はロスアンゼルスに住んでまして、弟は今も向こうにいるのですが、弟からパートナーを紹介された時、自分はちょっとした違和感を持ってしまった次第で、いや、ゲイの友人とか結構いるのに、身内がとなると、自分がちょっとでもそんな感情を持ってしまったことが自分でも許せなかったのですが」
その反応はわからないでもない、と良太は本宮の胸の内を慮った。
「そんなに罪悪感を持つことはないのでは? 身内からあり得ると思えなかったことを告げられれば、誰でもそうだと思いますよ」
良太は慰めるというのでもなく淡々と言った。
「今はもうごく普通に弟のパートナーのことも可愛いもう一人の弟と思えるようになりましたが。むしろ両親の方が全然普通に受け入れていたので、自分のことが許せなかったんです」
「いや、そういう感情があることを生徒さんに話してやればいいのでは?」
「あの、広瀬さんはそういうマイノリティとかに対してはどういうお考えですか?」
あらためて問われると良太もうーんと首を傾げる。
「何ていうか、俺って昔から、そうなんだ、って思っちゃう人間で、あんまりマイノリティだのマジョリティだの考えたこともないっていうか。でも世間一般的な情報がどうかはわかってますけど」
だからお前は能天気ってやつだと、工藤なら言いそうだと良太は人をバカにしたような工藤の顔を思い浮かべる。
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