「どうかしたの?」
コートを受け取ってやってきた亜弓が聞いた。
「先ほど山内様が、広瀬様の分もとおっしゃって」
良太はそれを聞いて、しまった、と思う。
あーあ、ひとみならやりかねない。
また、お礼しとかないと。
「車を取ってくるから、ちょっと待ってて」
二人を店内に待たせておいて良太はレストランを出て車を置いている駐車場へと向かう。
「あ、どう? そっちは。え、まだ終わってないのか?」
歩きながら森村を呼びだすと、撮影がようやく最後のテイクだという。
「もうこんな暗くなってんのに?」
「何かついでに、別のシーンも追加したみたいで。あ、でも大丈夫です。今のところ滞りなく進んでますから、ご心配なく」
どうしようかと思ったが、何かあったら連絡をしてくれるように森村に言うと、良太は車をレストランへと走らせた。
「びっくり、山内ひとみがどうして支払いしてくれるの?」
赤信号で止まった時、後部座席から亜弓が聞いた。
「大物は太っ腹なんだって。俺なんか下っ端だから、何かしてやりたくなるんだよ」
「でも、誰でもってわけじゃないよね?」
「ひとみさん、うちの社長とも懇意にしてるからだよ。ヤギさん、ああ、下柳さんと三人昔からつるんでるみたいだし」
本宮はひとみのことより、いい車ですね、と興味の対象が変わっていた。
「広瀬さんの車ですか?」
「まさか。社用車です」
厳密に言えば社用車ではないが、工藤の車だと言うとまた亜弓に突っ込まれそうなので良太は無難な言葉を使う。
まず本宮を品川のビジネスホテルに送り届けた。
「今夜はありがとうございました」
本宮は良太の中での印象は最後まで爽やかイケメンだった。
「じゃあ、明日また」
「おやすみなさい」
本宮と亜弓もそんなやり取りをしている。
「ホテルは一緒じゃないのか? 本宮さんと」
会社に向かう道すがら、良太は後部座席の亜弓に聞いた。
「やあね、あたしたちまだそういうんじゃないわよ。明日は今日の続きの講演会があるから、その後ちょっと二人でブラついて一緒に帰るけど」
「あ、そう」
そうなんだ、教員ということもあるのか、二人とも節度をわきまえているようだ。
「で、本宮さん、どう思う?」
亜弓があらためて聞いた。
「ん? いい感じの人だと思うけど」
「え、それだけ?」
「ちょっと話したくらいじゃ、それ以上わからないよ。ウソつくタイプじゃないと思うけど、なんか問題抱えるとそれだけになっちゃうみたいな感じもあるかな」
「ああ、そうねえ、でも、例えばの話、結婚したら豹変してモラハラになるとかってタイプじゃないよね?」
「ナニソレ? そんなこと心配してんの?」
「よくある話じゃない」
「でもそれはなあ、さすがにわかんないなあ」
確かにDVでひどい目にあったという女性の話は多々あるが。
「なあによ、呑気ね。大事な妹の人生変わるかも知れないって時に」
不服そうに亜弓が口を尖らせた。
「そんなこと言われても。母さんたちにはもう紹介したのか?」
「まだ、そんな段階じゃないし」
「あいつが変なヤツだったら、俺がぶっ飛ばしてやるから」
良太の言葉に亜弓は大きな溜息をつくだけだった。
そんなことを話しているうちに、車は会社に着いた。
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