朝から冷たい風がビルの間を吹き抜け、太陽は分厚い灰色の雲の後ろにずっと隠れていて、今日は日中も気温が上がらなそうだ。
それでもあちこちのビルのウインドウから覗くオレンジ色のカボチャ頭がユーモラスな顔で笑っているのが、行き交う人々の寒い心を和ませてくれる。
「ご馳走様! 美味しかった! マルネコさんのお弁当、今日の大当たりでしたね」
ここ乃木坂にある青山プロダクションのオフィスでは、窓際の大テーブルでそぼろ弁当を平らげた広瀬良太がそう言ってお茶を飲んだ。
「ほんと! そぼろの味付けが絶妙よね」
向かいで同じ弁当を食べ終えた鈴木さんも頷いた。
こうしてまったりとオフィスで昼を食べるのは、良太も久々だ。
ここのところ出ずっぱりで、外でハンバーガーや適当なランチをそそくさと食べられればいい方で、昼抜きで夕方ようやく腹にものを入れたような日もままあったりした。
テレビ番組、映画の企画制作プロデュースが、元々の青山プロダクションの主な業務内容であったが、いつの間にかタレントの育成とプロモーション業務も加わり、俳優などのタレントを含め、総勢十数名ほどの小さな会社だが、業績はこの不景気にあって右肩上がり、故に社長の工藤高広を筆頭に仕事は常に飽和状態、万年人手不足は緩和される兆しは今のところない。
社長秘書兼プロデューサーの肩書をその名刺にはいただいており、無論今や工藤の懐刀として周囲も認めている良太も、仕事に忙殺される毎日を送っている。
某有名暴力団組長の甥であるという工藤の出自が万年人手不足の大きな理由で、何かよほどの事情がない限り、その事実を聞かされると面接に訪れた学生たちは大抵きびすを返してしまう。
かつては母校に募集をかけたり、広告を出したりしたこともあったが、今はそれもやめている。
キー局であるMBC時代には鬼の工藤と異名を持つ敏腕プロデューサーとして名を馳せた工藤は、関わったプロジェクトは必ずと言っていいほど当たり、俳優自身もブレイクするというので有名で、実力のないものは切り捨てる冷酷非情な男として業界では知られている。
「工藤さん、明日大阪からお帰りになるのよね?」
カップを持って立ち上がりながら鈴木さんが聞いた。
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