「それよりまず明日、どうやって、佐々木さんに会うかだよな」
佐々木のことしか頭にない沢村はもはや誰憚ることなく口にした。
「ふーん、明日、佐々木さんと会うんだ? で、父親の放った間者に嗅ぎつけられたらって心配してるんだ? 協力してあげようか?」
そんな沢村に目を輝かせながらアスカがのたまった。
「アスカさん!」
怪訝な顔で良太と秋山が思わずハモる。
「いい考えがあるの」
良太と秋山は得意げなアスカを見つめながら、嫌な予感を払しょくできずにいた。
十月末日。
いつからか日本でもハロウィンのお祭り騒ぎがあちこちで見られるようになって久しい。
ショーウインドウにはカボチャや魔女が現れ、イベントやパーティが催され、通りにはコスプレを楽しむ人々が集う。
ここウォーターフロントにあるこのホテルでもハロウィン仕様な飾りつけがそこここに見られ、思い思いの不気味さを競うコスプレに身を包んだ面々が、ロビーを通っては奥の客室用エレベーターへと消えていく。
そこへタクシーで乗り付け、慌てたようすで入ってきたのは黒のスーツを着た良太だった。
実際のところ、良太にはこんなところでこんな格好で、パーティを楽しむ余裕などどこにもなかったのだが、昨日のアスカの「いい考え」は、良太の忙しさなど何のそので強行された。
イベンター藤堂に声をかけたのが運のつき?
あっという間に、ホテルのスイートを借りての大掛かりなハロウィンパーティ開催となったわけだ。
「えと、奥のエレベーターだっけ………」
きょろきょろと見回して、良太は客室用エレベーターの方へ向かう。
その時、ポケットの携帯が鳴った。
しかも工藤着メロのワルキューレだ。
「あ、お疲れ様です。え、東京駅ですか? 早かったんですね」
今日は大阪から帰るとは聞いていたが、遅くなるんじゃなかったのかよ。
「あ、えっと、実は今夜ハロウィンパーティで………」
「ハロウィンパーティ? なんだそれは」
胡乱気な声が携帯の向こうから聞こえた。
「藤堂さんとか、佐々木さんとか…いや、あの、クリスマスはクリスマスで、今は……、は?」
「そんなカボチャパーティなんぞ、とっとと切り上げろ」
「かぼちゃパーティって……あ、いや、もう、早めに切り上げるつもりで……!」
ブチッと音がするように電話は切れた。
「………何だよ、いきなり切らなくっていいだろ!」
良太は携帯に向かってブツブツ文句を言う。
ちぇ、俺だって帰りたいんだよっ!
ここんとこ、あんまし話もしてなかったしさ。
でも工藤がこんな早く帰ってくるとは思わないじゃん。
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