「いやいや、燃えるね、こうゆう面白いイベントは!」
にっこり笑う藤堂は十分この策略を楽しんでいるようだ。
「それじゃすみません、俺、一足先に失礼します」
良太は立ち上がった。
「明日早いんだっけ? 気にしないで任せなさい」
また明日連絡をもらう約束をして、良太はバーラウンジを出た。
確かに、朝イチで一つ打ち合わせが入っていたが、どちらかというと良太は、工藤が既に帰ってきていることの方が気になっていた。
「十時か」
ふうっと一つ息を吐くと、良太はロビー階へとエレベータで降りた。
ロビー階に着くと、急ぎ足でタクシー乗り場の方へ良太は向かった。
その時、少し紫がかったシルバーヘアの雰囲気から品のある和服の女性が歩いてきた。
老齢だが整った顔立ちで若い頃は美女と言われていたろう女性は、だが高い鼻が何だかハロウィンの魔法使いのようだと良太は思った。
と、すれ違いざま、突然女性がかがみ込んで、「あ、いたたた…!」と声を上げた。
驚いて、良太は駆け寄った。
「あの、大丈夫ですか? どうされました?」
「いえ、すみません、草履の鼻緒が切れて足を挫いてしまって………」
「え、わかりました、今ホテルの方を呼びます」
「いえ、そんな大げさなことでは……。ちょっと肩を貸していただけます?」
「あ、はい」
良太は女性の腕を支えながら立ち上がるのを手助けした。
「すみませんが、エレベーターのボタンを押していただけますか? 三十六階を」
良太はエレベーターが開くのを待って、女性を乗せると三十六階を押した。
「大丈夫ですか?」
「大変もうしわけありませんが、ちょっと部屋まで連れて行っていただけないでしょうか? 別の草履に履き替えないと……」
「え……」
早く帰りたいのは山々だったが、良太はここで女性を放り出せるような性格を持ち合わせてはいなかった。
「わかりました」
エレベーターは他に客もなく、二人を乗せて上がっていった。
back next top Novels