月鏡18

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 男たちはするとリビングへと出て行った。
「随分と度胸がいいのねえ。このあたしに向かってずけずけと」
「だって事実でしょう」
「まあ、そうね。でも私がいなきゃ、高広だって生まれてないんだから」
 言われて良太はうっと言葉に詰まる。
 確かにそれはそうかも知れないが。
「だから、俺に何の用です? そもそも、あなたが工藤さんの会社の人間である俺に逢うとか、もしマル暴に嗅ぎ付けられたりしたら冗談じゃないです!」
 良太は声を上げた。
「ふふん、なかなか忠犬じゃないの。それにT大卒で優秀だし、私に意見するとか、可愛いだけじゃなくて肝が据わってるし、高広もいい舎弟を持ったものね」
 その言葉にまた良太はカチンときた。
「舎弟じゃなくて、部下です。俺は野球しかやってこなかったんで別に優秀でも何でもないし」
 ムキになって訂正する良太を、「可愛いわねぇ」と多佳子は笑い飛ばした。
「俺があなたと会っているとか下手に知られたら工藤さんの立場が危うくなります。冗談じゃない! 今日は著名人がこのホテルに来ているから、記者とかカメラマンが手ぐすね引いて待ってるんだ」
 良太は危機感を覚えて言い放った。
「とにかく、何か用があるなら早く言ってください」
「あたしもね、人の親よ? 高広は可愛い孫なのよ。こんな家業に嫁いだのも自業自得だってわかってるわ。だけど、高広のためと思って逢うのも我慢して、たった一度、親が亡くなって、あの子の行く末を決めるって時に逢ったっきり………」
 多佳子は神妙な顔つきで語る。
「それがいきなりネットで顔を見て、こんなに立派になってって、高広に逢いたいと思うだけなら、ばちはあたらないでしょ?」
 今にも泣きそうなようすで少し声を震わせながら多佳子は良太に訴えた。
 だが、良太は冷めた目で多佳子を見つめた。
 何だか女優が演技をしているような気がしたのだ。
 さっき良太の前で転んで見せたのはまあ及第点かも知れないが、老婦人を放っておけないというところに意識がいっていた。
 第一あの組織の組長を仕切らせたと波多野が断言したような人間だ。
「そんなの仕方ないっておわかりでしょう。工藤さん、思い切りヤクザとか嫌ってるし」
 平然と言う良太を見る多佳子の目が光る。
「可愛くない子だね! 可愛い顔して」
 今度は吐き捨てるように魔女がのたまった。

 


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