「ええ、早めに帰るって言ってましたけど」
大きなガラス窓の向こうに目をやって、良太は木の葉が舞い踊っているのを見ると、うげぇ、寒そう、と呟いた。
工藤も一時よりはほんの多少、仕事の量を減らしたようだが、相変わらず東奔西走していることは変わらない。
ったく、ちょっとくらい減らしたって、また元の木阿弥じゃないかよ。
少しは年も考えろよな。
とは、良太の心の声なのだが。
工藤が休みすらまともに取ったのは八月にタレントが風邪を理由にスケジュールに穴を開けた二日ほどと、まとまった休暇と言えば、九月に冤罪事件に巻き込まれ、無能な警察に捕まったために、強制的に仕事を休むことになった数日くらいだ。
これまで何かというと、寝込んだり入院していたのは良太の方で、工藤は寝込むどころかそれこそ風邪なんか気合で直しても動いている。
良太としても少しでも工藤の仕事を減らすべく、できることは率先してやるし、工藤に無理難題言われようが、丸投げされようが、誰もいないところで文句をぶちまけるくらいで、ハイハイと滞りなくやっている。
だがここのところの無駄な忙しさは、ついこの間覚せい剤所持で逮捕され、業界のみならず世間を騒がせた水波清太郎関連の仕事が元凶だ。
何せ、水波清太郎主演で既に撮了しているにもかかわらず、スポンサー関連の記念番組のドラマは急遽撮り直しとなり、今後の方針を決める会議ではテレビ局、スポンサー、制作会社、その他関連業者などの利害関係がもつれる中、ドラマに、青山プロダクション所属女優中川アスカが出演しているために会議に出席せざるを得なかった。
代役を決めてほぼ三分の二を取り直すことになったものの、今度はクリーンで、実力があり、人気もそこそこの中堅どころの俳優ということで、肝心の代役を誰にするかで大揉めとなったが、ようやく多忙ながらオファーに応じてくれた大澤流が代役となった。
スポンサー関連のドラマのためCMも撮り直しが決まり、こちらにも主演である大澤がアスカとともに代役として出演することとなり、関係者がこぞって迷惑を被ったわけだ。
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