月鏡20

back  next  top  Novels


 せっかく工藤が早めに帰ってきたっていうのに、俺はとっとと帰りたいんだよっ!
「いいじゃないの、坊や、その心意気。気に入ったわ」
 何だよ、この人、いったい何が言いたいんだよっ!
「そうですか。とりあえず、もう帰ります。これ以上、俺があなたといることが万が一表ざたになったりしたら、工藤さんにとってメチャマイナスに働くことになる」
 良太は語気を強めて言った。
「フン、目くじら立てなくても大丈夫。今日は中山富貴子は京都あたりに物見遊山に出かけていることになっているから。影武者になってくれる腹心くらいいるのよ」
「へえ。もし狙われても偽物が犠牲になるだけってことですか」
 ちょっと嫌味を込めて良太は言った。
 富貴子が平造を旦那の身代わりに刑務所に入れたという話を思い出したのだ。
「ほんっとに、にくったらしいこと言うじゃないの。でもまあ、そういうことよ」
 富貴子ははっきりと肯定した。
 つまり、富貴子は京都にいることになっているのなら、ここにいるのはただの魔女で、良太が関わっても会社や工藤の迷惑にはなりづらいというわけか。
「だったらもういいでしょう? 俺は帰ります」
 良太は立ち上がって、ドアに向かう。
 だがまたしても、リビングから男らがやってきて良太の前に立ちふさがった。
「どいてください!」
 力ずくでは勝ち目はないだろう相手に、良太は声を上げた。
「かまわないわ、通してやって」
 富貴子の声が後ろで聞こえた。
 男たちはさっと良太を通した。
 良太は振り返ることなく、部屋を出た。
 エレベーターホールに辿り着き、ドアが開くと良太は乗り込み、ロビー階のボタンを押した。
 すると思い出したかのように良太の膝が笑い、良太は咄嗟に手すりにつかまった。
 工藤の祖母なのだが、何せ相手はあの中山会の先代の奥方だ。
 ついている連中もちょっとやそっとの配下ではないように思えた。
 今更ながらに、簀巻きにしてコンクリート詰めで海に沈められるとか、あのままいなかったことにされて行方不明になるとか、そんなことが頭をよぎった。
 工藤についている煩い蠅、とか思われていたらまた何をしてくるかわからない。
 くっそ、魔女オバサンめ!

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村