月鏡3

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 制作を進めている広告代理店サンホールディングスとの会議もあったのだが、ちょうどCMを制作したクリエイターの佐々木が別件でニューヨークにいたため、このあと会議に出席した良太と打ち合わせに寄ることになっていた。
 業界では天才クリエイターとして名の知れた佐々木周平は、近年、古巣である弱小広告代理店ジャストエージェンシーから独立し、オフィスササキを立ち上げた。
 オフィスササキの唯一のスタッフ、池山直子とも良太は懇意だが、直子から、佐々木も本当にここのところ疲労困憊状態だという話を聞いていた。
 佐々木はジャストエージェンシー時代は、社長の庇護のもと、ゆったりと仕事を選んでやっていたのだが、独立して以来、佐々木にとっては以前の倍以上の仕事のオファーに対応しなくてはならなくなったという。
 その上水波の一件で、撮り直し案件が他にもあるらしく、直子も佐々木を心配していた。
「お互い、仕事にのめり込む上司を持つと苦労するよね」
 佐々木が立ち寄ると連絡を入れてきた直子がため息交じりに言った。
「ほんとだよ」
 良太もついつられて溜息をついた。
「でも、来年の大和屋のイベント、去年ほど大掛かりじゃないから、まだよかったわ」
「そうだね。でも、佐々木さんの仕事は、クリエイターだけにとどまらないから、大変だよね、茶の湯の方もだから」
「うん、まあ、そっちは何とか、浩輔ちゃんもうちの先生の門下生になったし」
「え? 浩輔さんが?」
 西口浩輔は青山プロダクションとも取引のある代理店プラグインのデザイナーで、直子や佐々木とは、ジャストエージェンシーで一緒に仕事をしていた。
 老舗呉服問屋大和屋のイベントとは、青山プロダクションを通じてプラグインと佐々木が制作に関わったプロジェクトで、今年の年頭も行われたものだ。
 来年の頭にも行われることになっているが、着物ショーと茶の湯がメインになっている。
 佐々木の母、淑子は茶道陽成院流師範で、佐々木も幼少から茶道を嗜んでいたため、大和屋の着物を着用して開催する茶の湯にも駆り出されるのだ。
「正直、今の佐々木ちゃんお茶とか頭にないからさ、それは間近になってからでいいんだけど、とにかく倒れないでほしいよ」
「佐々木さん、そんなひ弱なイメージはないけど、ムリは禁物だからな」
「そう」
 当の佐々木がやってきたのは、三時少し前あたりだった。
「お邪魔します。さっむかったぁ……」
 開口一番、佐々木は言った。

 


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