月鏡34

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「わかりました。私の手のものに、直接魔女にあなたの言葉をそのまま伝えさせましょう」
「金輪際、良太やその家族に近づくな。もしなんかあったら、この手で殺しに行くって伝えろ!」
 いきり立つ工藤は声を荒げて言った。
「了解しました。伝えましょう」
 波多野はあくまでも冷静にその言葉をメモった。
「しかし、良太はなかなか面白い発想の持ち主ですね。魔女オバサンとは言い得て妙です。ハロウィンがこの先トラウマにならなければいいですが」
「今後は魔女には近づかないだろうさ」
 とはいうものの、あの良太のことだ、老婆が困っていたりすれば手を貸すくらい当然するだろう。
 例え一部の疑惑があったとしても。
 要は、あのババアさえこっちに食指を向けなければそれでいいのだ。
「俺は来週頭にはドイツへ発つ。だがこのまま良太を放っては行けない」
 険しい顔で工藤は言った。
「わかりました。あなたがドイツに立つ前に何とかしましょう。とにかく、あなたはこちらへは一歩も踏み出さないでください。何ごとも私の方できっちりやりますから。また連絡します」
 波多野に念を押された工藤は、さすがにもう何を言うこともできず、MEC電機を後にする以外なかった。
 もどかしいままに駐車場に降りた工藤は、ドラマ「カラスの城」の撮影現場へと向かうべくエンジンをかける。
 工藤がフジタ自動車のCM撮影のために青山プロダクション所属俳優の志村やそのマネージャーである小杉とともにドイツへ行っている間に、映画「大いなる旅人」の撮影が京都であり、それには良太も同行することになっている。
 志村の出番のないカットの撮影だが、能楽師檜山匠を使っての重要な場面でもある。
 できるものなら良太を一人置いていきたくはないのだが、「大いなる旅人」は青山プロダクションにとっても大事なプロジェクトであると同時に、良太にとっても起点となる仕事なのだ。
「クソババアになんか邪魔されてたまるか!」
 工藤は吠えるように言ってアクセルを踏んだ。

 


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