月鏡36

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「終わってからの方がええんちゃう?」
 良太は壁の時計を見て、そろそろ七時近くになっているのに気づいた。
「あ、じゃあ、何か出前取りましょか? 好きなもの言ってくだされば、加藤さんも千雪さんも」
 すると、今まで黙っていた加藤が、ボソリと、「鮨」と言った。
「あ、わかりました。千雪さんもお鮨でいいですか?」
「そらもう、俺までお相伴に預かって有難い」
 良太は早速寿司屋に電話をした。
「はい、青山プロダクションです。えっとはい、五人前お願いします」
「工藤さん、帰ってきはるん?」
 良太が電話を切ると千雪が聞いてきた。
「帰ってこなかったら、食べちゃえばいいんです」
「けど、五人前やと多いンちゃう?」
 千雪が素朴な疑問を投げかけた。
「あれ、背後霊は?」
「ああ、背後霊は今頃解剖の真っ最中やないか?」
 背後霊で会話が成り立つというのも千雪の面白いところだ。
「じゃあ、まあ、加藤さん、二人前くらい入りそうでしょ」
 加藤はバイク、千雪は車で来たという。
「じゃあ、ノンアルですね。俺、買い出し行ってきていいっすか?」
「いや、良太は監督しとかな。俺、行ってくるわ」
 千雪はそう言うと軽いフットワークでオフィスを出て行った。
 加藤はオフィス内を念入りに調べていたが、やがて良太のデスクにあったメモに何か書いて良太に見せた。
『一つあり。デスクの裏』
 加藤が示したのは工藤のデスクで、良太の後ろに位置している。
『誰でも手に入るタイプ。プロが仕掛けたものではないと思う』
 やっぱりあったんだ。
 だったら、魔女オバサンの手先か。
 少なくとも波多野さんなら、そんな誰でも使えるものなんか使うはずないし。
 一体いつ仕掛けたんだろう。
 忍び込むってのはまず難しいよな。
 プロじゃないと。
 俺のデスクまでくらいなら、沢村と小田先生の話は聞かれなかったと思うけど。
『千雪さんが戻ったら、他の階へ』
 良太もメモに書いて加藤に見せる。
 加藤はその間に、盗聴器の写真を撮ると、金属製の箱を取り出しその中にそっと入れて蓋をした。
「電波を遮断する箱ですから、もう話してもOKです」
 それを聞くと良太はふうっと息を吐いた。

 

 


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