月鏡40

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「そや、辻とかも秋に京都一度帰るとか言うてたし、どうにも進まん原稿、地元やったらなんぞインスピレーション降りてくるかもな。加藤はどや? たまには京都旅行とかもええで?」
「ちょっと千雪さん!」
 明らかに工藤が仕向けたのだが、千雪がそれに乗っかって、「休みなら取れる」と加藤もにこりともせずに乗せられた。
 千雪がラインで他のメンツにも声をかけたところ、数名が京都旅行に行くぞ、と声をあげたらしかった。
「一応、背後霊にも……と、行くらしいで?」
 背後霊が行かないはずはないと良太は思う。
「何だ、背後霊ってのは?」
 ノンアルビールを飲んでいた工藤が真顔で千雪に聞いた。
「千雪さんに憑りついてる背後霊ですよ」
 良太が代わってそう言うと、「は、そりゃ行くだろうさ」と工藤が苦笑した。
 総勢六名が京都旅行に名乗りを上げた。
 おそらく冤罪事件の時、多摩の山小屋に集まった、屈強なやつらに違いない。
「そうか、じゃあ、良太、せっかくだから一週間くらいホテルでも取ってやれ」
 工藤はノンアルで酔っ払ったかのように機嫌よさげに命じた。
「はあ」
「奮発してやれ、な、良太」
 良太にニヤっと笑いながら工藤は立ち上がり、「じゃ、あとは頼む。俺は上にいる」と言ってオフィスを出て行く。
 ドアを開ける前に工藤は振り返ると、「ああ、無茶はするなよ」と千雪らに念を押した。
「シルビも喜ぶで、鞍馬のお山のお散歩やなんて」
 すっかりもう京都旅行に千雪は心が飛んでいるらしい。
「はあ、でも千雪さん、地元でしょ?」
「鞍馬の方はそう足伸ばしたこともないからな。ホテル、奮発してくれるんやろ?」
「まあ、ええ、温泉とか? もありますし」
「あ、ええな、温泉!」
「千雪さん、大浴場苦手じゃなかった?」
「大浴場は苦手やけど、内風呂やったら最高やん」
「はあ。露天風呂付お宿、手配します」
 良太としては複雑な思いだった。
 何も起こらないだろうとは思うのだが、波多野も手を回すと言っていたし、だが魔女オバサンに良太が部屋に連れ込まれることまでは予測がつかなかったのだ。
 しかし、そんなボディガード付きで京都まで行くとか、ありかよ? 俺が。

 


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