それに彼らの演技に対する姿勢は頭が下がるものがある。
大抵、舞台とかをメインでやっていたり、劇団に所属していた俳優が多い。
「とにかく、気を引き締めてやらないとなあ」
良太はザバッと顔を洗う。
「くっそ、知らない人について行っちゃダメだって、肝に銘じとくさっ!!」
己を叱咤激励して、良太は拳を握りしめた。
工藤は大手化粧品会社『美聖堂』の社長、斎藤と赤坂のクラブでグラスを傾けていた。
女優をしている孫を、映画に使ってほしいとゴルフ仲間に頼み込まれ、二村桃子を工藤に紹介した斎藤は、二村が今回やらかした事件だけでなく、過去にも問題を起こし、事務所がそれをもみ消した事実もあったのだと知らされて、工藤に再三詫びを入れさせてほしいと連絡をよこしていた。
今夜ロケの前なら時間があると工藤が告げると、斎藤は行きつけのクラブに工藤を呼び出した。
まあ何のことはない、飲みたいだけなのだが。
「ひとみちゃんは、今夜一緒じゃないのか?」
「いつもいつもひとみの顔を拝んでいたら酒もまずくなりますよ。それにひとみも同じくでしょう」
「フン、それだけ長い付き合いだってことだ。まあ、そういう人は大事にすることだよ。結婚って形じゃなくてもね」
物分かりのよさそうなことを言って、斎藤は好きなコニャックをなめる。
「この度は二村のことでは本当に申し訳なかった」
「頭を下げるとかやめてくださいよ、この業界こんなことはいくらもあるってご存じでしょう」
工藤は斎藤の薄くなりかけた頭をみながら続けた。
「まあ、それにしてもあそこまでタチの悪いのは珍しいですけどね」
「やっぱり根に持ってるじゃないか」
斎藤は眉を八の字にして言った。
「斎藤さんのせいじゃないですし」
「いや、それにしても、良太くん、なかなか骨のある業界マンに育ったじゃないか。誰に対してもブレないってのは、君譲りってところだね」
良太のことを褒められるのは工藤としても悪い気はしない。
「いやまあ、誰に対してもってところが、アダになることも無きにしも非ずですがね」
まったく、怖いもの知らずにもほどがある。
ホンモノを前にしても動じないのはわかっていたが。
以前、ホテルで、その手の団体に工藤がいちゃもんをつけられたことがあったが、その時も良太が俺の前に出て突っかかっていったのを工藤は思い出した。
back next top Novels