月鏡45

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 いや、何より、あのバカは腕っぷしもないヒョロヒョロのくせに、威勢だけで俺の代わりに刺されるとか、バカとしか言いようがないだろう!
 何度病院へ良太を迎えに行ったことか、思い出せばきりがない。
 俺の代わりとか、沢村に手を出させないためとか、正義感を振りかざすのはいいが、幼稚園児が何とかマンのマネするのとはわけが違うのだ。
「でも彼は優しいね。どうもギリギリまで、二村が改心するのを待ってくれたみたいだよ」
「はあ」
 その優しさが時として己を危うくさせることがあるってのが、今度こそ身に染みただろう。
 工藤は良太のことを考えると腹が立ってくる。
 良太に対してではない。
 良太の優しさに付け込むやつらに対してだ。
「しかし、限界と思うと、決断が早いね、良太くんは。私のところに来た時はもう既に代役を決めてたようだし。そこはきっちりしていて、ほんと君の懐刀だよ」
「いざという時に決断しなくてはならないとはしっかり肝に銘じてくれないと」
「いや、きっちりしているよ。今度ぜひ、良太くんも一緒に食事でも。あまり酒は強そうじゃないみたいだし」
「はあ、ありがとうございます」
 斎藤に気に入られたのは、まあ、よしとするか。
 この人は、なあなあなことをしそうにみえて、実は厳しいからな。
 工藤は次は良太一人でもOKだな、などとも思う。
 そんな工藤の思惑がわかったかのように、良太はくしゃみを一つした。
 湯上りにぼんやりビールを飲んでいたせいかもしれない。
 テレビの天気予報では明日から寒気団が南下して寒くなると、気象予報士が温かくしてお出かけくださいとくどいほど訴えている。
「風邪とか引いてる場合じゃないからな、寝よっと」
 寒くなるとナータンは良太の毛布に入ってきてくるっと頭を枕側にして寝るし、チビは足元に丸まって寝る。
 猫の機嫌にもよるのだが、温かい湯たんぽのようでやっぱりありがたい存在なのだ。
 明日はパワスポの沢村八木沼対談が待ってるし、準備はとっくに万端だけどな。
 明後日は沢村と八木沼の二人を御殿山の料亭に招いての接待となっている。
 沢村の件もまだ調査中だって、遠野さんも言ってたな。
 沢村に張り付いているやつに張り付いて、ほんと頭が下がるって。

 


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