月鏡50

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 お人形のように可愛いくせにとか言うとハラスメントだから言わないけど、まさかだった。
「腕に自信なしな俺が情けない」
 ついつい愚痴もでるわけだ。
「何、言ってるんだよ。良太は野球やってたんだろ?」
「やってたよ。でも野球やっても腕っぷしは強くならないし」
 はあ、と良太は肩を落とす。
「何をしょげてんだよ。腕っぷしなんか強くなくってもプロデューサー関係ないじゃん」
「まあ、そうなんだけどね」
 檜山は日比野に呼ばれて、次のシーンの撮影に入った。
 檜山の演技は相変わらず幽玄だ。
 こんな演技ができて、能を舞い、しかも合気道の段持ちって、何だよ。
 比べても意味がないことはわかっているが、自分に力の無いばかりに周りに、工藤に迷惑や心配をかけるのはやはり情けない。
 ポケットで携帯が振動している。
 良太は撮影から離れたところで電話に出た。
「はい、お疲れ様です。ええ、少しなら」
 相手は宇都宮だった。
 前々から内内で盛り上がっていた鍋の日取りを決めたいと言ってきた。
「はあ、そうですね、十二月に入ると予定入れにくいので、来週の水曜か金曜なら何とか」
「OK、じゃあ、良太ちゃんに合わせてみんなにスケジュール合わせてもらう」
「え、それって……」
 俺に合わせるって違うだろう、と言おうとした時には、じゃあまた、で切れてしまった。
 実は宇都宮に打診しておけと、工藤から前々から言いつかっていることがある。
 夏に、新人俳優のドタキャンで撮影に穴が空いた、つまりスケジュールが空いた工藤が、軽井沢へ行くぞ、と急に思い立ったように車を飛ばした棚ぼたな休暇。
 しかし転んでもただ起きない工藤は、ちゃっかりちょうど綾小路邸のパーティに呼ばれたおり、東洋グループ次期CEO綾小路紫紀と話していたのが来年以降の放映予定になるドラマのことだ。
 医療ものと刑事ものの合体という、どちらもすぐに視聴者を呼べそうなカテゴリーに加え、アクションなんかも加味した娯楽に徹したドラマで、脚本家の坂口がノリに乗っているらしい。
 そのキャスティングは大学病院の外科医に宇都宮、刑事に青山プロダクション所属俳優の小笠原という組み合わせで、どちらも人気俳優がバディを組むという内容に、初めから高視聴率間違いなしと、坂口などは豪語しているらしい。
 が、キャスティングはまだあくまでも坂口の中での話らしく、先日、良太ちゃん、宇都宮と最近仲いいんだって? さり気に打診しといてよ、なんぞと電話で軽く言ってくれた。
 工藤にそれを告げると、「確か、鍋をやるとか言ってたな」とこちらも当てこすりのようにのたまった。

 


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