月鏡53

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 ちょうどここは陽ざしが入るのでまだ明るい。
 後ろを見ると鬱蒼とした北山杉の群れが、前を見るとガードレールの向こうは峡谷になっている。
「一応、あの、お耳に入れておきますけど」
 あらかた弁当を食べ終わった森村が徐に言った。
 良太は、何の気なしに森村を見た。
「俺、波多野さんの弟子なんで、何かおかしなことがあったら、俺に言ってください」
 日比野さんの弟子なのでとでもいうように、ニコニコというので、へえ、そうなの、と頷きそうになった良太は、一瞬この似て非なる名前を聞き違えたのかと思った。
「え、日比野さん、だよね?」
「いえ、波多野さん、です~」
 語尾を伸ばす今時の若者の顔を良太はまじまじと見た。
「えええええ、うっそ!」
 まあまあ、落ち着いて、と思わずゴクンと呑み込んだのが喉につかえた良太に、森村はニコニコと笑う。
 お茶をがぶ飲みして、やっと落ち着いた良太は、「ってか、波多野さん、私がお灸をすえときますとか、言ってたよね?」と思い出して尋ねた。
「ってか、まだあの魔女オバサン、俺のこと狙ってるとか?」
 森村は頷いた。
「マジで? 何のために?」
「いやあ、そこがどうも。波多野さんがお灸を据えようと人をやったら、どうやら影武者だったらしく、すぐに俺が呼ばれて日比野さん経由でここのクルーに。一応、フリーでADやってるんで」
 はああああ、と良太は大きくため息をついた。
「一人にはならないでくださいね。彼らも用心棒でしょ?」
 森村は辻や加藤を見ながら尋ねた。
「用心棒って…………。まあ、腕のたつ仲間?」
「千雪さんて、機転が利きますね。凄腕ばかり集めて温泉旅行って」
「どこで仕入れるのかな? その情報」
「波多野さん経由です」
「あっそ」
「もし彼らがいなければ、俺、一緒の部屋にさせてもらおうと思ってたんですけど、ホテルでは彼らがいるから大丈夫そうですし」
「でも、相手、ホンモノなんだろ?」
「腕はお仲間の方が上と見ました。それに、檜山さん、合気道の達人ですし」
 良太は驚いた。
「そんなことまで知ってるんだ?」
「ああ見えて、凄腕です。ニューヨークでも襲われそうになって相手を叩きのめしたことがあるらしいです」
 ひええ、勘弁してくれ。

 


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