「やっぱ俺だけじゃん。腕のたたないのって」
また落ち込みそうになる良太に、「威勢と度胸は凄いです」と森村は慰めにもならないことを言う。
「ま、いいや、波多野さんの弟子だってことは口外しない」
「千雪さんなら大丈夫と言ってました、波多野が」
「いいのか、それで?」
逆に大丈夫かと思ってしまう。
「千雪さんはブレないので」
「確かに。工藤の不利になるようなことは絶対しないな」
俺もだけど。
「仕事中は忘れてください」
「そんなの考えてらんないって」
良太が立ち上がると、森村も立ち上がった。
「弁当の殻、集めてきます~」
語尾伸ばすヤツが、波多野の弟子?
ああ、でも、匠が、あいつは只者じゃないって、見抜いてたな。
「あ、そうだ」
また森村が寄ってきた。
「思いがけないことで誘導されるとかあるかもなので、気を付けて」
「おい、まさか、クルーの中にとか言うなよ?」
「いやそれは大丈夫です~」
バタバタとゴミ袋を手に、森村は弁当の殻を集めて回っている。
「すみませ~ん、ゴミはこちらにお願いします~」
にこにこ楽し気な森村には誰もが悪い気はしないらしく、クルーも俳優も漂う雰囲気がいい感じだ。
「あの波多野さんの弟子にしちゃ、明るいやつ、ムードメーカー的?」
良太は呟いて撮影が始まるのを待った。
と、また携帯が鳴った。
着信鳴り分けに設定しているワルキューレだ。
「はい、お疲れ様です」
「そっちはどうだ?」
フランクフルトと京都という距離を感じさせないいつもの工藤だ。
「今のところ順調です。かなり冷え込んでますけど、晴れてますし、空気が澱みないのがいいです。もう撮影入ってるんですか?」
「ああ、今日からアウトバーンで撮影に入る」
朝の六時半か、向こうは。
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