月鏡56

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 三木原も舞台をやっているというだけあって、勘がいいというか、先を読んでいる動きがよくて、日比野も時々、いいね、を口にしている。
 二村の、あの、のたのたした動きは何だったんだ、とついつい良太は思い出す。
 しかも自分が前に出たいために他の俳優の邪魔をするとか、あり得ない。
 工藤ができないやつは切る、という冷酷さで名を轟かせていたというが、あの手の俳優なら頷けないこともない。
 良太がファンだった女優を工藤がいきなり切ったことに、文句を言ったことがあったが、おそらくそれだけの理由があったのだ。
 工藤は好き嫌いや忖度で人を切るようなことはしない。
 それもこれまで工藤を見てきたからこそわかったことだ。
 撮影は思いのほか早く終わり、翌日回しのカットもついでに撮れたことで、日比野は上機嫌だ。
「お疲れ様です~」
 森村は相変わらず愛想を振りまきながら、ちゃっちゃかとクルーを手伝って片付けにかかっていた。
 ふと見ると、加藤と辻のコンビが、いつの間にか京助と千雪のコンビに代わっていた。
「お疲れ様です」
 良太が近づいていくと、千雪と京助が振り返った。
「もう、終わったん?」
 千雪の足元にはシルビーが寄り添っている。
「ええ、今日は割と早く終わったんで、監督とか、帰って飲むんじゃないかな」
「そのくらいの楽しみがないと、きつい仕事やもんな」
 あくびをしている京助は、やはり疲れがたまっている感じだ。
「檜山さんの撮影シーン見ました?」
「残念ながら、ちょっとだけな。また明日見せてもらお」
「何か、檜山さんのシーンだけでも一つ映画ができそうな感じですよ」
「何? 良太、ついに芸術に開眼してもた?」
「もうずっと前から、能とビバルディですよ。こないだはカミーユ・クローデル?」
 良太は工藤と訪れたフレンチレストランのことを思い出した。
「え? 良太にしちゃ、えらく粋な名前がでてきたやん」
「知ってるんですか? 彫刻家で、こないだ西麻布にできたカミーユってフレンチレストランに、彫刻が置いてあって」
「へえ。好きな人は好きやで。ロダンに才能を食い物にされて精神を病んだ天才彫刻家や。ポール・クローデルは弟」
 サラリときつい言葉で説明された良太は、「え、そんな生涯? あんなきれいな人なのに。誰です? ポール・クローデルって」と聞き返す。

 


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