月鏡6

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 それから打ち合わせの場所と日程を確認すると、佐々木はふう、と大きく息を吐いた。
「佐々木さん、やっぱお疲れみたいだし、今日はもう上がった方がいいんじゃないですか?」
「人を年寄り扱いせんといてぇな。ここでちょっと休ませてもろたし、もうバリバリやれるて」
「佐々木さん………」
 良太はちょっと眉を顰めて佐々木を見た。
「ああ、でも、俺、ここのタイヤ、リピーターやから、この仕事、まあやりがいはあるねん」
「あ、そうですか? 俺も同じくです。やっぱ車はタイヤですよね」
 佐々木の言葉に、良太は大きく頷いた。
「それやね。車はええ加減ボロやけど、タイヤだけはええもん履かんと」
「ですよね! てか、佐々木さんの車、カッコいいっすよ? 安心感あるし」
 佐々木の車はボルボのステーションワゴンで、二月に軽井沢でスキー合宿をやった時も、良太は乗せてもらったのだ。
「いや、年式もう古いんやけど、まあ、愛着はあるなあ」
「俺も、まあ、俺の車じゃないんですけど結構乗りやすくて、ここんとこほぼ俺仕様になってるし」
 しばらく車談義をした後、佐々木はオフィスを後にした。
 佐々木が出て行くと、良太の顔から笑みが消えて、大きくため息をつき、少しばかり佐々木に申し訳ない気になった。
 というのも、実はこの後、沢村が寄ることになっていたのだが、それを佐々木には知らせないでほしいという沢村の頼みだったからだ。
 実は面倒なことになっていると、沢村から事情を聞いたのは昨日のことだ。
 沢村智弘、プロ野球関西タイガースの四番を打つ人気スラッガーである。
 そして沢村が付き合っている相手が、今出て行った佐々木なのである。
 ほぼ一年前、沢村の一目惚れから始まった二人のつきあいだが、ここにきて沢村が厄介な問題を抱えてしまい、沢村が著名人であるために、ただでさえ何かあったらもう逢わないと佐々木に言われかねない。
 そして佐々木に引導を渡されかねない問題を自ずから引き起こしてしまったため、沢村は良太に相談してきたというわけだ。
「こんにちは」
 一時間ほど経った頃、ドアを開けて入ってきた、少しばかり額が後退した温厚な表情の男は、「今日は寒いね」と言いながら帽子を取った。

 


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