「一応、相手を見て言ってますよ」
「どこがだ? 弱っちそうなくせに猛者に平気で喧嘩売る」
湯に身体を沈めながら京助が揶揄する。
「そんなことしませんよ。どうせ、虎の威を借るとか言いたいんでしょ」
「言わねェさ。お前トラにも食って掛かるからな」
京助の科白に檜山はくすくす笑う。
「良太、キレると怖いもんな」
「こんな弱っちいのつかまえて怖いとかないっしょ」
檜山に抗議して良太は眉を寄せる。
「でも一応、俺も皆さんと同じ体育会系っすから。腕っぷしは強くないけど」
良太はとりあえずそれだけは宣言してみた。
「へえ、良太、何やってたんだ?」
ニヤニヤと笑う山倉から声がかかる。
「野球、ですけど。ガキん時から。これでも沢村を三振に取ったこともあるんで」
一応、自慢にもならないことを付け加えてみる。
「へえ、沢村て、関西タイガースの? あの沢村と試合したことあるんか?」
辻が突っ込みを入れる。
「大学の時、までですけど。六大学リーグで」
沢村の名前を出したところで、まだあいつの問題、全然進捗なしみたいだな、とそのライバルを思いやった。
「おお? 大学どこだったんだ? 俺もR大だった」
加藤が六大学の一つを上げた。
「え、いや、その、万年最下位、でしたけど」
尻すぼみにボソボソ口にした良太に、「うっそ、良太ってT大出? 見えない!」と白石が大仰に喚く。
「はあ、野球しかやってなかったんで………」
すると檜山が、「良太、野球やるためにT大行ったんだって。それってすごくない?」と加勢する。
「まあ、人には色々目的もあるわな」
思い切り上から目線で京助が言った。
「じゃあ、高校、野球で有名なとこだったんだ?」
「いや、川崎第一って、野球でも鳴かず飛ばずの高校で、一応、県大会までは行ったんですけどね」
加藤に聞かれて良太は答えた。
「お、ひょっとして神奈川県民だった? 俺、横須賀」
「え、同県人?」
すると山倉が「俺ら昔、湘南鉄拳隊ってブイブイ言わせてたんだぞ、みんな同県人だ。淳史は横浜、啓は湘南」と、嬉々として言った。
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